ヘルシング

□絶対服従
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殺せばいい殺せばいい殺せばいい

指の力加減ひとつでどうにでもできる


簡単なことだ
軽く引金を曳いて
三つ数えるだけ
それでお終い
なにもかも忘れられる


でも、私の人生を、
誰がお終いにしてくれるのだろう





幼い頃、不殺(コロサズ)なんて糞喰らえだと思ったことがあった。
この世は時に不条理で、簡単に人を不幸にできる。
肯定しなければ歩いて行けない。
否定すれば前へ進むことなどできない。
此れ以上の見せしめが何処にあるだろう。

そうして私は過去を何もかも闇に放り投げた。
笑って生きていくのは簡単だった。







弾が私の肺を貫いたとき、体が冷えてゆくのが分かった。
呼吸ができなくて、朦朧として、ゆっくりと痛みや苦しみを実感した。
夜空に浮かんだ月が酷く綺麗だったのを覚えている。
死期を悟った時、脳裏に浮かんだのは悲惨な過去の記憶だった。
天に召されれば、パパやママに会えるかな、そう思ったけれど、涙が止まらなかった。


シニタクナイ死にたくないシニタクナイ




眼の前に悪魔が現れて、笑った気がした。
心の中に抱えていた黒い感情を持つ自分は罪な人間なのかもしれない。
その手に触れたら、何故だか懐かしくて愛おしかった。
死の淵で、思い出したくもない過去を剥き出しに曝され、
貫かれた傷口を、そんな風に、優しく、撫でられたとしてもそれは、
一時の慰めに過ぎなくて。

それでも、認めてくれた。
「本当の私」という存在に、気づいてくれた。



首筋に、噛み散切るように口付けて、
押し潰すように抱き締めた。



嗚呼、なんて甘い夢だろう。









殺せばいい殺せばいい殺せばいい、

そんな黒い感情も己のものだと認めることができたなら、殺せばいい
好きにするがいい
闇に葬り去ればいい

それは、私にとっての救いだった。












あの夜の胸の痛みと生温い程の優しい愛撫を、私は忘れない。

もしも私が人生を終わらせる日が来るとしたら、
それは彼の人生が終わる日だ。









(2009/2/11)

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