ヘルシング

□死成の無垢
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穢れなき白を見ると汚したくなる。
それは嫉妬心からだろうか。
どこまでも己のものにして仕舞わないと気が済まない。


その白い腕を無理に抑えつけて
牙を剥いて
躰を切り裂いて。

血塗れになりながら抱き合うほうがお似合いだと思わないか?

そうして味わうのさ。
死成の無垢を。
とても簡単なことだ。









「やめてください、マスター!!」

必死に抵抗する下僕を、ねじ伏せることなど簡単だった。
必死に抵抗すればする程無力さは露顕し、その身を捩る姿は扇情的で己の中に眠る"男"を刺激する。

突如として襲われた下僕は、主人の不可解な行動が呑み込めずに抵抗する。

その喚く煩い口を、自らの唇で塞ぐ。
冷たい舌を吸い上げれば、下僕は脱力し、瞳には涙を浮かべていた。

抵抗は消え、為すが侭、赤い舌が白い素肌の上を這う。
次第に衣服は脱がされ、白い肌が露わになる。

経験が浅い故か敏感に反応して嬌声がすぐに漏れた。
それを必死に堪える姿もまたそそる。


何も言わず、無言で事を進める主人がセラスは怖かった。
主人に普段とは異なる"男"を感じ、これからおこなわれる行為に不安を覚えたが、躰はいうことをきかなかった。
煽られるがまま感じている自分を嘲笑うかのように愛撫される。
舌がまるで生き物のように動いて首筋を這う。
両の腕を抑えつけられ身動きが取れないが、恥ずかしさから逃れたい一心で微かに身を捩った。
そうすれば更なる力で抑え込まれ、手首に痛みが走る。放して欲しいと、セラスは主人をめい一杯睨み上げた。


マスターと目が合う。
意外にもその目が、泣いていているように見えた。


そのことでセラスは自分の腕の痛みを忘れた。
しかしその表情は長い前髪ですぐに隠れてしまい、勝手にそう見えただけなのかもしれない、そう思った。


アーカードのセラスに対する扱いは酷いもので、
心が荒れていたのか、かなり乱暴なものだった。
下着はズタズタに破かれてしまった。
それなのにセラスは、主のことが愛おしくて堪らないのだ。
先程見た主の表情が、目に焼き付いていたからだろうか。


アーカードがセラスの首筋に咬みつく。
鮮血が滲み、パタパタと雫が白いシーツを赤に染める。
その感触は痛みでは無く、震える程の激しい快楽。
そしてアーカードは間髪入れずにセラスを犯した。
腰を揺さぶる姿は獣のようだった。
繋がった部分が熱を持ち、全身が痺れ始める。
セラスは甘い声を上げ主人を受け入れるしかなかった。
行為に夢中で我を忘れているような、獣のような主人に対して、
せめてもの思いでしがみつく。


突き立てられた牙の感触を覚えては、次第に行為はエスカレートし、
理性は飛び、本能が儘に溺れてゆく。
部屋に響くのはお互いの息遣いや、呻きや、卑猥な水音や、肌を叩き付ける音だけだった。








こんな行為に何の意味もありはしない。

でも、それでも。



総てを受け入れて呑み込んで血塗れになりながらひとつに混ざり合ってしまいたい。
そんな気分だった。


それは、「生きている」という幻想に過ぎない。









穢れなき白を見ると真紅に染めたくなる。
それは、穢れなきものへの嫉妬心からだろうか。
それとも本能からだろうか。









互いに果てた時、血塗れの身体はいつの間にか渇いて、飲み干されてしまっていた。
付けたばかりの痣も、
爪痕も、
すぐに消えて無くなってしまう。





それは、欲しくても手に入らない。

ならば手折れるまで何度でも味わおう。
死成の無垢。









終(2009/1/28)

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