FanFiction Novel
□月の引力
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ずっと、ひとりだった。
目蓋を閉じるとその裏におぼろげに現れる風景。
降り続く雨。
暗い石の家。
誰かを求め、声を上げて泣いても、
一度離れたその手は再び触れることはなく、
求めることをあきらめた。
誰を求めていたかも忘れてしまった。
いや、それが現実だったのか、古い夢だったのかも思い出せない。
だが、誰かに引っ張ってもらっていた手が離れて、ひとりで歩くことをおぼえた。
この方がずっと気が楽だった。
安らぎも、温もりも必要ない。
誰かに触れ、
期待し、
信頼し、
誰かの気持ちまで背負い込むよりも、
重くも痛くもない。
たとえ、乾いた大地にただひとり取り残されても、何処までも透明な存在は静かに消えることも出来る。
ずっと、ひとりだった。