treasure

□相互記念小説
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「銀ちゃん、迎えにきてくれたアルか?」

「あぁ?んー…まァそんなトコだ」
通りかかっただけ、なのだがこんなに嬉々とした顔を向けられちゃァ、否定なんて出来るはずねェよ。きっと他のやつが見たらただのあどけない少女の笑顔くらいなもんなんだろうけど…オレにとっちゃ神楽の笑顔は女神の微笑みってやつなんだよな。ホントは誰にも見せたくねェっつーか…こういうの独占欲が強いって言うのかね。
何しろこの笑顔一つで今日一日オレを襲った不運への忌々しい気持ちがすべてがチャラになるんだかんな。
そう考えると、やっぱり神楽に偶然とはいえ会えたオレの喜びは、コイツがこうして素直に伝えてくれる、オレに会えた喜びにも負けてねェな、きっと。
そんな事を考えながら神楽を見つめていたらいつの間にか定春まで駆け寄ってきてオレに擦り寄ってくる。
「定春、銀ちゃん迎えに来てくれたしもう帰るアルか?」
「ワン」
神楽の言葉に定春が返事を返し、そのまま3人で並んで万事屋へと向かう。
「あっそうだ神楽…」
オレは懐に手を突っ込むと今日の唯一の戦利品を引っ張り出す。
「ほれ、お前にやるよ」
「あっ、酢昆布ネ!」
キラキラと輝く瞳が嬉しそうに細まって、それを見る己の口元も自然と緩んでしまうのを抑えられない。否、公園で神楽の姿を見つけた時から緩みっぱなしなんだろうけどよ。
「銀ちゃんありがとアル」
小さな箱を両手でしっかりと受け取ると神楽は早速一枚酢昆布を引っ張り出して口に咥える。
にやりと嬉しそうに振り返る顔はあどけなさの中に温かさを兼ね備えていて、そんな笑顔を見ると思わずドキリと心臓が強く跳ねた。
「神楽ァ旨いか?」
「ウン、最高ネ!」
オレが一番求めているその幸せそうな笑顔を神楽は惜しげもなく振りまいてくる。
いつまでそうやってオレの隣りで笑っていてくれんのかね。
思わず見とれていたら神楽はそんなオレに眉を顰めた。
「銀ちゃん…」
「な、何だよ…」
そりゃ誰だって物食ってる姿じーっと見つめられたらおかしいって思うよな、それは分かってるけど、自分ではどうしようもねェんだよ。
「そんなに見たってあげないアル」
「は?」
思わぬ神楽の言葉にオレはきょとんと目を丸くする。
何だよそれ、オレが酢昆布欲しさに見てたって思ってんのかコイツ?
「銀ちゃんには帰ったら私がお礼に冷蔵庫のイチゴ牛乳ついであげるネ。だからこの酢昆布は全部私に献上するヨロシ」
オレは思わずぷっと噴出してしまう。んなもん最初から全部お前にやるつもりだったよ。オレが欲しいのは酢昆布じゃなくてお前のその何気ない笑顔なんだからよ、なんて気恥ずかしい台詞口が裂けても言えねェよな。だからオレは態度で示す。
「んーなら、これならいいだろ」
ぺろっと舌を出して神楽にキス。桜の花びらみたいに小さな神楽の唇は酢昆布の味がした。
「ぎ、銀ちゃん!」
恥ずかしそうに頬を染めながらもまんざらでもなさそうだ。きゅっとオレの着流しの袖を掴む神楽の手がそう語っている。俺に甘える時に神楽が見せる仕草だ。きっと本人は無意識なんだろーけど、そういうとこもオレの気持ちを揺さぶってるって気付いてんのかコイツ?
ああ、やっぱり今日の占いはハズレだな。どんなに酷い目にあったって、たとえ世界が滅んだって、コイツが隣にいてくれりゃァそれだけでオレの不孝は全部吹っ飛ぶんだぜ?何気ない仕草、ふとした瞬間に見せる笑顔、きっと神楽にとっちゃ何でもねェ日常なんだけどよォ。
「銀ちゃん、今日のてんびん座、最下位だったアルなぁ」
「んなもん端から信じちゃいねぇよ」
なぜ急に神楽がそんな話を持ち出したのか、その意図はわかんねェけど、どっちにしたって今のオレにはどうでもいいことだった。
「銀ちゃん、てんびん座の今日のラッキーアイテム何か知ってるアルか?」
「ん?知らね」
ああ、そういや最下位って分かった途端頭にきたんで見てなかったワ。





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