主従パロ

□センカと一欠と真珠姫
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レースのカーテンが棚引く窓辺に、写真立てが置いてあった。豪奢な部屋には似合わずそれはシンプルに、何の飾り気もない真っ白な写真立てだった。
――センカの子供の頃の写真だろうか。こうして飾っているということは。と、一欠は勝手に思い、ふとそれを手にとった。

「――何してるの」
「!」

つい先刻までシルクのシーツに包まれ眠って居たはずの主は。寝起きの癖がついた朝日に煌めく金髪を撫でながら、シャツを羽織っただけの姿で一欠の背後に立っていた。
思わず息を呑む一欠を不機嫌に見詰めたセンカは、彼を通り抜けてその手にした写真立てに目をやった。
瞬間、その顔がひどく優しいものになる。
一欠が一度も見たことの無いような、慈愛に満ちた優しい笑顔。一欠は驚いて、壁に背をぶつけた。

「………」
「…何」
「……いや、」

見間違いだったのかと思うほど。次の瞬間には、センカはいつもの自信に満ち溢れた表情で一欠を見ていた。
一欠が絞り出した返事に、センカは素っ気なく「そう」と言って、背を向ける。

「…そろそろ着替えたいんだけど。いつまでそこに居るつもり?」

顔だけ振り向いたセンカに、一欠はようやく金縛りを解いた。手にしていた写真立てを元の位置に戻し、センカの隣を通って部屋の出口へ向かう。
すれ違い様のセンカは、矢張り写真立てを見て。

「………」

穏やかな、顔をしていた。
一欠は掠れた声で、問う。

「…あの、ひとは」

メイドが部屋に入って来たが、一欠はそれだけは問いたくて振り向いた。
センカは、静かに言った。

「……俺が、愛したひと」

その優しい笑みは。泣きそうにしかめた眉は。穏やかな声音は。
美しいそれらは、あまりにも一欠の知るセンカには不似合いで。

「………」

きっとこれは夢なのだと、一欠は言い聞かせた。そしてもう振り返ることなく、部屋を出ていった。
写真に写っていたくすんだ青が、いつまでも目蓋に焼き付いて離れなかった。振り払うように、足早に去っていった。
けれどメイドがきつく睨み付けて居たのを、一欠は知らない。


end?
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