雨+雪=ミゾレ -雨混じり-

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ふと、気になっただけだ。遊び心半分。
囚われの兎を、逃がしてみようと。
何の思惑も無い、いつもの戯れだ。
或いはこの日常に終止符を打ちたかったのかもしれない。
彼の戒めを解くとは、そういうこと。

「何を、考えているんだろうね、俺は」

自問するが、答など闇の彼方。そんなもの無くたっていいのだ。どうせ戯れなのだから。
それがまるで自分に言い聞かせているようで、センカは吐き気がした。

「――…」

疲れたのだ。嫌気がさしたのだ。もう、これで良いのだ。
そんな言い訳がましいことを口の中で転がしながら、彼の元へ向かう。


ギイ、と鉄扉は軋んだ音を立てて重く開いた。
彼は鎖に繋がれ、頭を垂れたままだ。そのままセンカは何も言わず、彼を戒める鎖を解きにかかった。
すうっと彼が音も無く目を開けた。それから自分の自由を知ったのだろう、その深い色の瞳を丸くする。

「なぜ、だ」

掠れた息がそう問う。殆ど音にもならないそれを、けれどセンカの耳は捉えた。

「行きな」

眩しそうに目を細める彼に、笑顔を向ける。笑みを浮かべたつもりだったが、上手く作れただろうか。
センカの声を聞いた途端、彼は走り出した。

ああ、そうだ。何処までも駆けて行け。決して振り返るな。振り返ってはならない。お願いだから、…振り返らないで。

「…っ……」

センカの頬には、涙が伝っていた。

「……う、……っ…」

嗚咽をかみ殺し、冷たい石畳に転がった鎖を抱くように握り締めた。
無機質な銀色の金属。けれどセンカはそこに、彼を想って。

彼の為なのだ。自分が満たされるよりも、彼のしあわせを見たかった。
白い日の下で、何にも縛られずに生きる彼が、欲しかった。鳥のように風のように、何処までも自由奔放な彼を、ほんとうは見たかったのだ。

後悔してない訳ではない。けれど、センカはもう求めることはやめた。

永遠のさよならを告げて。


end.
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