普通の話
□□
6ページ/10ページ
『一日一SS-風璃とセンカと一欠』
カクン、と頭が落ちそうになって、慌てて我に返る。
暖炉の火があたたかで心地が良すぎた。またすぐに夢の世界へ舞い戻って仕舞いそうなゆるやかな思考を、ぺちっと頬を叩いて止める。
その様を見ていたセンカが苦笑しながら言う。
「…寝たら?」
「うー…もうちょっと。大丈夫」
声は半分寝ているようにゆっくりで、気を抜けば瞼が落ちてきそうだが、気力でなんとか持ちこたえる。
「一欠だってもうとっくに夢の中だし」
暖炉前の特等席で突っ伏した体は、ぴくりとも動かない。
けれど風璃はふるふると首を横に振る。
「僕も、起きてる…約束、したから」
意固地な風璃には適わない。センカは諦めたように息を吐いて、立ち上がった。視線を追うことで問うた風璃に、「ほんとしょうがないね」と言って、キッチンへ向かう。
「水でも飲む?」
「…うん」
こっくり。そのまま船を漕ぎ出して仕舞いそうな様子の風璃の頬に、ワザと冷たいコップを押し当てる。悲鳴を上げた風璃は、遂にパッチリと目を開けた。
「まだかなぁ、詩音」
見上げた時計の針は、夜中を回ろうとしていた。
end.