普通の話

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『一日一SS-真珠姫と瑠璃』


夜、あんまりにもお月さまが綺麗だったから、ちょっと都市を抜け出してみた。濃紺の空、満天の星の中に浮かぶ月は、真っ白で太陽みたいに眩しい。足元を見れば、薄ら影が見えるようだ。
冷たい夜風が頬を撫でる感触に身を竦めながら、少し行ったところで、道の先に誰かが居るのが見えた。近付いていくと段々と見えてくるその姿は、けれど半分暗闇に溶け込むように紛れている。
夜空を見上げるその横顔に、瞬く。

「……瑠璃くん」
「――真珠か」

呼ぶと、彼も今気付いたように少し驚いて振り向いた。

「どうして、ここに居る」
「えっと…おつきさまが、あんまりにもきれいだったから…。だいじょうぶよ、すぐに帰るつもりだったから、迷子にはならないわ」
「そうか」

それきり、彼はまた顔をそむけてしまった。ぼんやりと月を見詰めるそんな彼は、どこか儚げだ。だから思わず、彼の手を取った。

「!」
「…つめたい。瑠璃くん、いつからここにいるの?風邪ひいちゃうよ」
「ああ……そうだな。戻るか」

彼の心内は知れなかったけれど、彼の言葉は何も聞けなかったけれど。繋がった手が彼に温もりを与えてくれるなら、それでじゅうぶん。此方の想いを、めいっぱい込めるから。


end.
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