普通の話
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『一日一SS-コロナと詩音』
見上げた空は、どんよりと鼠色。ぽつぽつと落ち始めた雨は、すぐに大きな音を立てて大雨になった。ぱらぱらと背後の窓硝子が叩かれて鳴った。それを聞いて、コロナは更に壁に背中をぺたんとくっつけるように身を退いた。
買い物帰りに雨に降られ、こうして空家の軒先で雨宿りをしている。鍵が開いて居れば、不法侵入だけどこの場合は理由があるからなんとでもなるだろうと思ったのだけど、扉は木板さえも打ちつけられていて、鼠一匹入る隙間も無い。
「……雨、止むかな」
ふうっと溜息を吐いて、白いカーテンの向こうを見遣る。止む気配は全然無いけれど、コロナはそこに水溜りを踏む音を聞いた。
「…え、…」
はっきりとしない視界、近付いてきた人物が露わになったのは目の前だった。
コロナは驚愕に目を見開いた。まさか、と思うような人だったから。
「……コロナ」
「詩音、さん…?」
「いきなりの雨だったから…迎えに来た」
そう言って、詩音は差していた傘を肩に乗せた。驚くコロナの手を取って、その下に入れる。
二人、一つの傘に入って、一緒に家路をゆく。
「ごめん。傘、一本しか無くて。…今度、コロナとバドの分を買いに行かなきゃね」
「はい。……その、ありがとうございます」
「………」
コロナの礼には、詩音が瞠目する番だった。けれどすぐに、やわらかに笑んで。
「…ううん。家族、だから」
詩音の言葉にはコロナも嬉しくなって、思わず詩音の空いた方の手を取った。ぎゅうっと握りしめて、伝わるあたたかさを共有する。
「…はいっ!」
end.