普通の話
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『一日一SS-センカと真珠姫』
先に相手に気が付いたのは、どちらだったか。
「あ。」
ふと合ってしまった視線に、声は同時に上がった。
ざわめく街の大通り、沢山の人が行き交う中でまさか知人の姿を見付けるとは思わなかった。互いにそう驚きながら、ゆっくりと歩み寄った。
「こんにちは、おにいさま」
「やあ、…君が一人でいるなんて珍しいね、真珠姫。また迷子かい?」
「瑠璃くんは宿に居るんです。わたしは、お買いもの」
交わす言葉は他愛ない物だけれど、射抜く視線はどちらもきつい。互いに相手の隙をうかがっている様な、そんな緊張した一瞬。
けれど、それを崩したのはセンカの方だった。不意に破顔し、真珠姫には向けられたことのないような笑顔を見せた。真珠姫は驚いて、閉口する。
「付き合うよ。迷子になられたら、瑠璃が大変でしょ」
「…おにいさま」
「ほら、手」
そう、差し出された手を真珠姫はじっと見て。その視線に気が付いたセンカが笑う。
「俺だって、繋ぐなら瑠璃の方が良いけど。今だけだからね」
「…おにいさま?」
「はやく」
急かされて、背を押されるように真珠姫はその手を取った。白い小さな手を、センカの大きな手が包む。ぬくもりに、真珠姫は目を細めた。
「…瑠璃くんも、手繋いではくれないのに」
「ああ、じゃあ俺がハジメテを貰っちゃった?」
「責任、取ってくれるんでしょうね?」
「えー」
そうして二人、大通りを並んで歩く。隣にあるセンカの姿を見上げながら、真珠姫はそっと穏やかな表情を浮かべた。
(…瑠璃くんと、違う距離)
end.