普通の話
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『小話−風璃とエスカデ』
玄関をノックする音が聞こえたから、素直に開けた。
「詩音、居るか」
そこに変態男が居たから、閉めた。
「ッオイ!ちょっと待て!!」
乱暴に叩かれる扉の向こうで、何やら喚くのが聞こえた。
「すいませーん。勧誘お断りでーす」
「違う!勧誘じゃない!」
「新聞間に合ってますんでー」
「新聞屋じゃない!」
「ウチ、牛乳は●印なのでー」
「俺は森●だが……って違う!」
「わああ!」
力任せに扉を開かれ、風璃はころんと転がった。
ちょうど目の前に銀髪で趣味の悪いスパッツを履いた男。
「良いから詩音出せ!」
「どこの組ですか?」
「ヤクザじゃねェ!」
「…煩いんだけど」
玄関先でなにやらごちゃごちゃやってると、書斎から詩音が出てきた。
「「あ、詩音!」」
同時に叫んだ二人に、詩音はあからさまに嫌な顔をした。
「詩音!誰これ!」
風璃が指さす訪問者を、
「知らない人」
詩音はあっさりそう言ってのけた。
「ってオオイ!!」
訪問者の裏手突っ込みには誰も気付かなかった。
ちょっと頬を赤くしながら、今度は彼の方が問う。
「詩音、誰だこいつ」
そう言えば初対面だっけ、と詩音は思った。
そしてこれまたあっさりと、
「(記憶が無いからあんまりよく)知らない人」
そう言った。
「詩音!?」
風璃の叫びは二人にはスルーされる。
「それよりも詩音、今日はジャングルが…」
「草むしりなら手伝わないけど」
「違ッ!」
「酷いよ詩音!僕は君の…」
「そろそろ朝とかに勝手に部屋に入って来るの止めて貰える?」
「えっ、気付いてたの!?」
更にごちゃごちゃと玄関先で。
限界が来たのは詩音だった。
「詩音、だからジャング…」
「詩音!朝のはね、」
「二人とも」
詩音の声で、辺りがシンと静まり返った。
こりゃやべぇ、とエスカデは思ったが、体が思うように動かない。
「とりあえず、出てけ」
「詩音ー、夜くらいは入れてよー。そろそろ寒く…へっくしょ!」
「だからジャングルで…」
「詩音さん、なんか…良いんですか?」
夕飯のシチューを啜りながらのコロナの問いには、詩音は涼しい顔
で「良いの」とだけ言った。
(不憫だな…風璃…)
そう思うバドも、後が怖いので黙っておく。
「ところでジャングルで、何?」
「いや、ジャングルで俺のスパッツ(パーティ用。ラメ入り)が無くなって…。このままじゃ明日のマチルダの誕生日会に間に合わない!」
「…あっそ」
end.