普通の話
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『小話−詩音』
捕まえたばかりのヒナは飼い葉に埋もれて安らかな寝息を立てている。
このまま順調にいくとあと数日で孵るはず。もう随分前からいるラビが私の隣で、興味深そうに覗き込んでいた。
「名前、決めなくちゃ」
言いながらそのラビの頭を撫でる。ラビは少し目を細めてその長い耳を寝かした。
「何が良いと思う?」
答えが返ってくるはずはないけれど、私は真剣に問う。
ラビは小首を傾げて、それなりに考えているようにも見える。その様がおかしくて、私は思わず笑みを零した。
「はやく、決めないとね」
胸の音が存外大きく聞こえる。すごく、なんだか言えないくらい幸せな感じがする。
やわらかな鳴き声が聞こえる気がする。
その、裂けた口が笑みの形に歪んだ気がした。
ラビは嬉しそうに、まだ固い殻にからだを擦り寄せた。
ヒナが孵るまで、日の昇る日は片手で数える程。
end.