主人公と一緒シリーズ

□詩音と
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『詩音と膝枕』


ぽす、と軽い衝撃と共に落ちてくるように乗せられた、小さな金の頭。
突然のことに反応できないで見守っていると、当人は何かを確かめる様に目を瞑ったり視線を巡らせてみたり。膝の上に乗っているその頭がもぞもぞと忙しないのだから、乗られている方も落ち着かない。

「……何をしている」
「やわらかくは、無いのね」
「当たり前だ」
「それもそうね」

けれど彼女はそこから退こうとはせずに、真っ直ぐに一欠の顔を見上げてくる。その翠の瞳は、一欠を突きぬけて青い青い空を映しているようだ。
彼女の長い金髪が風に流れて、一欠の腕を擽った。思わず身動ぎすると、体制が崩れて彼女が落ちそうになった。

「―――っと、」
「………」

詩音の目が一欠の所作を追う。
若しかして先刻の行動が自分にしては意外だったのかと問うと、そうではないと首を振られた。

「あなたなら、そうすると思ったけど、相手がわたしだから」
「……別に、お前に対して嫌悪の感情は持っていないが」
「うん、何も思って無いから。あなたは、そういう対象外のものは切り捨てると思って」

詩音の言葉は無垢で真っ直ぐだ。一欠はけれど、こればかりは自分らしくは無いと思いつつ、彼女の髪をそっと撫ぜた。
詩音が驚いて、少しばかり目を見開く。

「……何も思って無いなら、こういうことを許したりはしない」

その顔は陰になっていて、詩音には彼がどんな色を浮かべているのかは分からなかった。
けれど、決してその言葉に嫌な感情を持つことは無くて、詩音は少し微笑んだ。

「―――そう、」

その言葉は、風に流れて消えた。



end.

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