主人公と一緒シリーズ

□センカと
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『センカと手を繋ぐ』


珍しく二人きりになったので、ふと彼が口を開いた。
「良い天気だし、ちょっと出掛けない?」と。リビングの暖炉際で本を呼んでいた詩音も別にそれは時間つぶしの様なものだったので、素直に頷いた。
それじゃあ早速、と二人連れ立って、快晴の元外へ飛び出した。

詩音は、右手の先をじっと見詰める。彼女の小さな白い手を握るのは、一回り大きな骨ばった手。その先に、センカの後ろ姿。

「…センカ」
「ん、何?」
「…手、……別に、繋がなくても」
「はぐれちゃったら困るじゃん」

そう彼は言うけれど、それほど人通りの激しい通りでも無い。
詩音は困惑の表情を浮かべたまま、また抗議の声を上げた。

「はぐれないから……子供みたいに、言わないで」

その言い様が正しく子供の様だと思うも。
眉根を寄せた詩音に、センカは苦笑する。ゴメン、と軽い謝罪を呟きながら。

「なんか、癖みたいなもんで。ついやっちゃうんだよね、守ってあげなきゃって思って」
「……貴方に守られるほど、私は弱くない」
「だからこれは俺のエゴなんだって」

それきり、手は繋がれたままに彼は前を向いた。その背中を、自分よりも風璃よりも広い背中を見ながら、詩音は口をつぐむ。
別に、彼にこうされることは構わないのだ。子供扱いされることは気に食わないが、少し彼の言葉は心地好かったりする。
風璃の心からの安らぎの言葉とは違う、センカのさり気無い温もりが。まるであたたかい慈雨の様で。

「……エゴなら、仕方ない」
「うん、そう。俺のエゴだから…ちょっとだけ付き合ってね?」

だってこれは、一時のことだから。今だけの、一睡の夢。


end.

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