主人公と一緒シリーズ

□一欠と
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『一欠と手を繋ぐ』


世界が夜の闇に包まれた、静かな時間。あたたかな明りの灯る室内で、珍しく一欠と詩音の二人きりで過ごしていた時の事だ。
リビングでは火がパチパチと爆ぜる音が響いているが、窓の外の暗闇はしんと無音の世界。けれどその時、詩音がふと顔を上げた。

「?」

気配に、訝しげに視線を追ってみるが、その先の窓は相変わらず真暗。首を傾げる一欠を余所に、詩音が読んでいた本を置いてぼんやりと立ち上がった。まるで夢遊病患者の様な所作に、思わず一欠も声を掛ける。

「……おい?」
「―――きこえる」
「あ、?」
「きこえる、よ」

幼子の様な口調でそう言った詩音は、不意に一欠の手を取って駆け出した。向かうは玄関、その先の外の世界。

「!なっ、…」
「こっち」

戸惑う一欠を引っ張り、詩音は暗闇の中を何かを目指して駆けて行く。なされるがままの一欠は、無様に転ばないように必死に彼女に付いていくしかない。

「……いた」

詩音が、足を止める。抗議の声を上げようとした一欠の、けれど目の前を光が過った。

「!」

夏の蛍の様な、冬の綿雪のような、……けれど、それとは全く別のもの。
ぼんやりとその様を見詰める一欠に、嬉しそうに詩音が囁く。

「……精霊の、光」
「…聞こえた、って」
「そう、精霊の声」

繋がったままの手は、もうその必要が無いのだが、二人とも構わないでいる。だから一欠はそれを利用して、素直に言葉に出せない代わりに握る手に力を込めた。
気付いて居るのか居ないのか分からない詩音は、うたうように言葉を紡ぐ。

「きこえる、でしょ。わらってる、うたってる、精霊の声。
 見えるでしょ。あたたかい、やさしい、精霊の光。
 ―――とっても、きれいな…」
「………ああ…」

隣に立つ詩音が、随分小さな子供に見える。きっと今の自分も幼子のようなのだろうかと想像しがたい物を考え、一欠は少し口の端を苦く上げた。
色取り取りの、やさしい光の海の中で。


end.

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