主人公と一緒シリーズ

□風璃と
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『風璃と手を繋ぐ』


太陽が西の空に沈んで、辺りはやがて真暗になってしまった。今日は月のない夜らしく、空の星明りだけではどうにも頼りが無い。足元さえも覚束ない街道で、詩音は隣を歩く彼の衣服をそっと引いてみた。

「…ん?何、詩音」
「くらいから…」

怖い、というよりは不安、という気持ち。彼が闇に掻き消えてしまう錯覚に陥るのが、恐ろしかった。だから、その存在を確かめるために彼を求める。
詩音の言葉に、すぐに意を汲み取った風璃は、詩音の衣服を掴む手を取って、繋いだ。合わさった手の平から、互いの熱が伝わる。

「なんか、昔みたいだよね」
「……むかし、」

詩音は「昔」を知らないけれど、けれど何処かに在る既視感。それはきっと、遠い遠い昔の記憶の彼方。
返す言葉にふさわしい物を詩音は知らなくて、答えの代りに握る手に力を込めた。

「早く帰ろう。コロナ達が夕飯作って待ってるよ」
「……うん」

今は、「ただいま」と言えば「おかえり」と返る家へ。
二人、繋がる手だけを互いの存在の頼りに、真暗な夜を行く。


end.

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