主人公と一緒シリーズ

□詩音と
1ページ/1ページ

『詩音と雨宿り』


窓の外は大雨、硝子戸を叩く粒がパラパラと音を立てている。ぼんやり、頬杖をついて雨の景色を眺めていた詩音に、ふと影が差した。

「……風璃」
「寒くない?ほら、ミルクいれたよ」
「有難う…雨だから、あんまり寒くない」
「そっか」

本当ならば、今日は一緒に出かけようかと昨夜話していたばかりだ。窓にはてるてる坊主が、寂しそうに俯いてぶら下げられている。
また外に視線を戻した詩音の隣に、同じように腰をおろして風璃は口を開く。雨音の酷い外とは隔離された家の中は、対照的にとても静かだ。一挙一動が大きな音を立てそうなくらいに鋭敏な空間。

「残念だったね。今日、行けなくて」

風璃の言葉に、けれど詩音は少し首を傾げて振り向いた。その目に浮かぶのは、純粋な疑問符。

「…別に…出掛けるのは、いつでも出来るから。雨の中わざわざ出掛けたくないし」
「あー、そうだよね」

濡れて、風邪をひいてしまう方が面倒だ。詩音の言葉に、風璃は未練があったのは自分の方かと思う。
今までの空白を埋めるかのように、自分は焦っていたのだろうか。時間は、これからまだまだ沢山あると言うのに、何かに急いて。

(僕って、やっぱりまだまだだな)

そう風璃が心内で自分に苦笑する風璃のことなど知ってか知らずか、詩音は続けて言を紡いだ。あついホットミルクを、ひとくち。

「――それに、風璃とこうしてゆっくり雨を見たりして…過ごせるのも、楽しいから」

ふと合った視線に、詩音の翠の瞳に、風璃は幼き日々を重ねた。
詩音の言葉は、まるであの小さかった昔を思い出す様な、そんな色を含んでいて。懐古に風璃が目を細めると、つられたように詩音も表情をやわらげた。

「…うん、そうだね。そうだよね」

これから、いっしょに時を紡いでいけばいい。時間は沢山あるのだから。
そう言って、昔の様に髪を撫ぜても良いだろうかと、風璃はそっと手を伸ばした。


end.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ