ろぐ
□吸血鬼パロ
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人間の血を飲むこと。
そんなこと、ボクにとったらただの食事で、呼吸をするように当然のことだった。
当然、できてきたはずなのに。
「……っ」
「……ごめんなさい」
「構わないよ。ほら、誰かに見られる前に、さっさと済ますんだ」
「ん……」
ぐい、と首元に頭を押さえられ、彼の血の匂いで、脳がくらくらする。
小さく傷痕を嘗めてから、彼から離れる。ボクの唾液には治癒能力があるから、じきに塞がるだろう。
「ん、もう、いいのか……?」
「……はい」
嘘だ。ほんとうは、喉が渇いて渇いて仕方がない。でも、いつか彼を殺してしまいそうな自分が、こわいのだ。
身を翻して、体育館の用具室を出る。
彼は黙ってボクについてくる。
彼とボクの関係は、少なくとも、今までボクが人間と作ったどんな関係とも違う。
彼は、ボクの食事ではない。
「黒子」
冷たい手に、手首を掴まれた。普段から比較的体温の低い掌は、更に冷たくなっている。ボクが、血を飲んだせい。
振り向かないままで、「なんですか?」と答える。すると、小さなため息が聞こえて、次の瞬間には背から腕に抱きこまれていた。
「あかし、くん……」
「黒子、最近オレの顔見てないだろ」
図星。情けないことに、ボクは人間の気持ちでいう、罪悪感とやらのせいで、彼の顔を見れないでいた。
――いや、違うのかもしれない。
例えば、彼が化け物を見るような目をしていたら?
例えば、こんなことをしているボクを、それでも慈しむ瞳をしていたら?
(どっちも、いやだ……)
君には、嫌われたくない。
君には、変わってほしくないよ。
だからだ。
「……ちゃんと、また飲みたくなったら言うんだよ?」
「……はい」
「オレが、黒子といたいんだ」
(……よく、そんなセリフ、)
でも、きっとそんなところが。
彼の腕を解いて、体育館から出る。
ボクも君と同じこと思ったんですよって、君を呼ぶのは、お腹が減ったからじゃないんですよって。
そう言ったら、彼はどんな顔をしたんだろうか。
ボクは人間じゃないから、君の気持ちがぜんぜんわかんないんです、赤司くん。
口内に残る味は、どんな人間の血より、おいしい。
血がおいしいから、ボクは赤司くんのことが、こんなにすきなのかなあ。