黒バスA
□告白
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「すきです」
気管がきゅうと締まって、死人みたいな声が出た。死にたい。
赤司くん、なんて顔してるんですか。目、まん丸にして、らしくないですよ。
心中ではいつものように思考がはたらくのに、実際のボクはどれだけ情けない顔をしているだろうか。さっきから声は枯れたように出ないし、真夏のように顔は熱い。心臓なんて、今にも破裂してしまいそうだ。
「黒子……」
「……なんですか? もう、二度と言いませんよ」
「それはないだろ、もう一度言ってくれ」
「だめです。もう言えません」
ほら、ちゃんと聞いてないから。
ひどく自分勝手だと自覚している。それでも、困らせることになったって、叶いっこなくたって、伝えたくてたまらなかった。
「一回だけ、です」
そう、一回だけ。
その一回だけは、ボクは一人の人間として、キミという一人の人間に、この想いを伝えようと決めたのだ。
不意打ちのように突然言ったのは悪いと思っていない。ちゃんと聞いてて欲しかった反面、聞こえないで欲しかった。
「……では、ボクは失礼します」
ぺこりと頭を下げてその場を去る。半ば逃げるような早足だったけれど、かまわない。
赤司くんを振り返らず、そこから離れたところで適当な教室に入り込んだ。
その途端、抑えていたなにかがどっと堰を破ってあふれたような気がした。
「……すき、ですよ」
赤司くん。
一回だけじゃなくて、これからも、ずっと伝えていきたい。
なりふりかまわず、何度でも、何度でも。キミの目を見据えて、十年も、二十年も、その先も、一緒にいられたらいいのに。
溢れる想いと、罪悪感がすれ違う。
「すきだよ」
ふいに返ってきた言葉。
涙でぐしゃぐしゃになった顔をひっくり返されてみると、よく見えなかったけれど、見間違えるはずがなかった。
骨張った長い指が、濡れた両頬をはさみこんでいる。ああもうやだ、なんで追いかけてくるんだこの人。
赤司くんは、ボクがまた離れようと身動いだのが分かったのか、そうでなくてもそうしたのか、おもいっきりボクを抱き締めてきた。いよいよボクの頭は羞恥心と混乱で爆発しそうになる。
「は、なしてっください、なんで」
「お前こそ聞いてないじゃないか。オレもだよって言っただろう?」
「……うそです」
「うそじゃないよ。逃げないで、黒子」
ぐるりとまわされた両腕は力強くてあたたかい、離れるなという強制力を孕んでいた。
「……ほんとう、ですか」
「うん」
「なにがですか」
「黒子がオレをすきで、オレも黒子がすきだってこと」
「っ……!」
「あ、こら暴れるなって。オレ、すごく嬉しいよ、黒子」
どうしよう、
どうしようどうしよう、
落ち着いた低い声がゆっくりと耳に流れ込んでくる。顔を埋め込んだ制服からは赤司くんの匂いがした。
「黒子、もう一回言ってよ」
「……むり、です」
ぐずり、鼻を啜る。
もう一回なんて言えるわけがない。キミに自分勝手な想いを伝えるのは一回と決めた。しかし赤司くんはそれを許さないらしい。
「無理じゃないよ」
「無理です。言えません」
「じゃあ、言えるよ」
どうしたんだ、この人は。無理だって言ってるじゃないか。
疑問に思ってしかめた顔を上げれば、やさしい色をした目がこちらを見て言った。
「言えない?」
「………はい」
「はは、そっか」
「え?」
「言いたくない、じゃないんだな」
「……!」
ほら、言えるよ。
黒子。と小さく言って、ひどくやさしく笑った顔は、至近距離で見るには実に心臓に悪い。
「…………すきです、赤司くん」
「オレも、黒子が大すきだ」
ありがとう、そう言ってもう一度、いとしい腕が強くボクを抱き締めた。