黒バス

□埋めようのないゼロセンチ
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「テツヤ、いっしょに寝よう」
「……狭いからいやです」
「オレは寒いんだ」

 征くんは時々すごい強引だ。
嫌だって言ってるのに、ぼくのベッドに勝手に上がってきて、にやって笑う。


「おにーちゃんけんげん」


 とか勝手に言って、勝手にぼくの布団の中に潜り込んでくる。冷たい身体が入ってきたせいで、せっかくの布団の温もりが一気に消え失せる。


「征くんのばか! もっと寒くなりました」
「だいじょうぶ。こうしてれば、すぐにあったかくなるよ」


 ぎゅうって征くんがぼくを引っ張って、鼻がぶつかるってくらい身体も顔も近づく。


「……狭い」
「文句ばっかりだな、テツヤ。もうちょっと待って」


 むすっとしたぼくのほっぺたを小さく摘みながら、征くんが身体を丸める。ぼくもそれに倣ってちょっと経てば、たしかに、布団の中が急にほかほかしてきた。


「征くんすごいです。ほんとにあったかくなりました!」


 なんて征くんの顔を見れば、もう寝てた。ずるい、せっかく褒めてあげたのに。


「……勝手」


 しあわせそうに眠る顔を見てちょっと笑って、ぼくのほうがおにーちゃんみたい。なんて自己満足して、ぼくもゆっくり目を閉じた。
 征くんの体温に触れる場所がとってもあったかくて、そのせいなのかはわからないけれど、すごくあったかい夢を見た。












「……あの頃は、許可をとるだけかわいかったかもしれません」


 自分のベッドの上を覗き込んで、ボクは思わず苦笑した。
 征十郎くんが横になって眠っている。

 仕方なく床で寝ようとも思ったけれど、なんだかお兄ちゃん権限に負けたみたいで悔しい。

 征十郎くんの肩を揺らして声をかける。


「あの、征十郎くん。起きて下さいって……わっ」


 いきなり肩を揺らす手首を捕まえられて、ベッドの中に引きずり込まれる。見れば、征十郎くんのにやにや顔がすぐ目の前にあって。


「征十郎くんっ、寝たフリ……!」
「お兄ちゃん権限を行使する」


 と、小さく抱き寄せられて、嫌な予感がする。ああもう、だからお兄ちゃんは勝手だって言うんだ……!


「……一回だけですから」
「ああ」


 たぶん嘘だってわかっているんだけど、ボクは仕方なく目を閉じた。



 いつだって、重なる手はゼロセンチ。




* * *




 小さなあたたかい身体を抱き寄せて、そっと、長いまつげに触れてみる。ぴくりと反応した瞼にちょっと笑ってしまった。
 でもテツヤは瞳を開くことなく、小さくて穏やかな寝息を繰り返していた。


 さっきまでかわいい憎まれ口を叩いていた小さな唇にもう一回だけ、ちゅ、とキスをする。


「ほんと……あたたかいな」


 腕の中のあたたかい身体と、じわりと胸を満たすあたたかい何か。
 オレの宝物はこうして腕の中にあって、確かに隣にいる。
あしたも、あさっても、ずっとずっと、この手で「あいしてる」って抱きしめたら、テツヤも抱きしめ返してくれるんだ。
 確かめるように腕に力を込めて、オレは意識を手放した。







埋めようのないゼロセンチ
(笑顔も涙も見つめてきたよ)

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