黒バス
□ひだまりの降る場所
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赤司くんとケンカした。
ボクは何も悪くないけど。
だいたい、赤司くんが悪いんだ。あんなやさしい顔を、ボク以外に見せるなんて。ボク以外と本の話なんかして。ボクだけの居場所のはずだった。ボクが赤司くんと共有出来る、幸せな時間なのに。その空間がどれだけボクにとって幸福なのかってこと、赤司くんは分かってないんだ。声を掛けるまで、ボクの事なんか気付かないし。
気付かれないのなんて慣れっこだけど、赤司くんはいつもいつも真っ先にボクを見つけてくれていたのに。
……色々思い出したら、余計もやもやしてきた。
「…………赤司くんのばか」
「誰がだ。ばか黒子」
「えっ」
慌てて顔を上げて振り向くと、無表情なのに怒ってる赤司くんの顔。
その顔が次は呆れた様に変わって、ふぅと息を吐いた。
細い指で首の後ろを掻きながら、声を紡ぐ。
「お前はこんなところに座り込んで、何がしたいんだ。急にどこか行くから、探すの大変だったんだけど」
「…………」
「それに、何怒ってるんだ。言わなきゃ分かってやれない。……黒子、聞いてるのか?」
「……だって」
「ん?」
ああもう、そんな顔されたら、怒るに怒れない。
ボクが再び口を閉じると、再度小さな吐息を溢して、赤司くんがボクの隣にしゃがみ込んだ。
その仕種を目で追っていたら、ガシッと頭を掴まれた。
面喰らっていると、真剣で真っ直ぐな瞳に見つめられる。
黙っていたら、頬にじわりと熱が滲んだ。
うわ、何赤くなってるんだろう、ボク……!
「あか、しく……?」
何とか絞り出した声に、赤司くんは小さく頷いて見せた。
「言わないと、分からないからな」
パッと頭が解放される。
言わないと、分からないからな。
先程飲み下してしまった言葉を、言うべきなのか迷う。
心の中の自分勝手な文句を、口に出しても良いのかと惑う。
呆れられそうで、嫌だ。
けど、それでも。ボクの独り善がりな感情も全部見抜いているみたいに、赤司くんがもう一度頷くから。
「……もう」
何故だか物凄く熱い顔を膝に埋めて、後ろ髪を掻く。
暫く黙っていると、「黒子?」と呼ばれる。
「どうした」
「……何に怒ってたのか、忘れました」
「……ばかだな」
「ばかですよ」
くす、と赤司くんが笑う。
その横顔が今側に居てくれるから、何だかもう、それで十分で。
ほんとばかだなあって思った。
ほんと、居てくれるだけで良かったんだ。今更思い知らされるなんて。
……でも気付いたから、ちょっと、ばかじゃなかった。
顔を上げる。ふわりと赤司くんの匂いがした。
ちらっと赤司くんの方を見ると、彼はボクの方を見て少し笑ってた。
「何笑ってるんですか、赤司くん」
「ん?」
こつん、と眉間を小突かれる。
「黒子テツヤは面白いなって」
「絶対馬鹿にしてますよね」
「そんな事ないけど?」
嘘つき。
小突かれた眉間を撫でながら、心の中で呟く。悪態を吐きながらも自然と心が高揚してくるのを、不思議に思う。
―――思うだけ。
だってもう、理由なんて分かってる。
悔しいけど、恥ずかしいけど、赤司くんの隣にいられる事が幸福で、嬉しくて、それだけで胸が高鳴る位満足だって感じる自分がいるから。
「赤司くん」
「ん?」
「ボクの事すきですか?」
「すきだけど?」
「どれくらい?」
「宇宙くらい」
そんな事を臆面なく言えてしまう君が、すっごいかっこよくて。
その言葉に嘘は無いって、今までの君が示してくれている。そんな事実が、計り知れない程のキセキだと知って。
「……どんな基準ですか」
苦笑しながらも呟いた声の裏には、もう一つの思いがあったの、君は知ってたんでしょうね。
(ボクもそれくらい、)
「……もう、春が来ますね」
「頬が熱いのを気温の所為にするのか?」
冷たい掌に、頬を撫でられる。
顔から火が出る、なんて言うのは、あながち大袈裟な表現でもないらしい。
「赤司くん……」
涼しい笑みを浮かべる君が眩しく見えるのは、春の所為なんかじゃない。
(それ以上に、)
吹き抜ける風に春の香りを感じた日。
赤司くんのかっこよさを、悔しいけど再認識した日。
ばかみたいに幸せな、春の始まり。
(君がすき)
ひだまりの降る場所
(ふたりを繋ぐ、あたたかな光)