黒バス

□終わるなんて言わないで
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「さようなら、赤司くん」


 黒子の熱が離れていく。

―――嫌だ。行くな。

 黒子の事がすきだった。大すきだった。
 くさいと思われるかもしれないけど、確かに愛していたと思う。
 だから、ずっと隣に居てくれるのが当たり前だと思っていた。

―――けど、違った。
 現に今、黒子はオレから離れていく。
 眼球が熱い。
 唇が乾く。
 掌が冷たかった。
 身体が震えていた。少し離れてオレを見つめる黒子は、ひどく淋しげで、哀しそうで、儚くて。


「そんな事、言うな……っ」

 そんな事言うな。
 行くな。側に居ろ。
 黒子の心を引き寄せる様に、彼の細い腕を掴む。

「離して下さい、赤司くん」
「嫌だ」
「離して下さいっ」
「嫌だって言ってるだろ!」
「赤司くん……っ」

 黒子の身体を抱き締める。
 絶対に離してたまるものか。

「行くな……」
「……っ」
「行くな。オレと居ろ」
「……こんな時まで、命令口調ですか」
「なに……っ」
「君のそういう所が、やだ」
「黒子……」
「もううんざりなんです。振り回されるのも、命令されるのも。もう嫌なんです」
「……だから、オレが嫌いになったのか」
「そうですよ」
「ずっと、オレと居るのが辛かった訳か」
「はい」
「ずっと、辛いのを我慢して、今まで無理に一緒に居たのか」
「はい……、そうですよ」


 何だ、それ。
 じゃあ今まで話してきた全部は、我慢して偽って紡いだものばっかりだったのか。
 無理にオレと合わせてたのか。そんなの……

「……ばかみたいだな」
「……」
「馬鹿だよ、黒子」
「ふざけないで下さい、赤司くん」
「ふざけてないよ。黒子は馬鹿だ。……オレは、黒子の為なら、何だって出来たのに」
「え……?」

 黒子の顔を見つめる。困惑しているようだ。
 オレが伝えたい事は、まだ伝わっていない。なら、伝えないと。


「オレは黒子の為なら、何にでもなれる。黒子が優しくしてほしいなら、優しくしてあげたい。黒子が大事にしてほしいなら、大事にしてあげたい。黒子が側に居てほしいなら、居てあげたい。そう思ってる。黒子がすきだから、何だって出来たんだよ」
「…………」
「けど、オレは本当はそんなに器用じゃない、気遣ってあげたくても出来なくて、自分の事だけで手一杯だった。言い訳みたいだけど、そう思ってるのは本当なんだ」
「…………知ってます」
「うん……?」
「知ってますよ。赤司くんが本当は優しい人だって知ってる。本当は何よりボクの事考えてくれてるって、知ってます」
「じゃあ、どうして……」

 黒子の瞳が上がる。
 凛とした光に、愛しさが募る。
 こんなに、こんなにも、黒子がすきなんだ。
 黒子が唇を嘗めて、声を伝える。

「赤司くんがすきでした。大すきでした。今だって、……すきです。だけど、ボクじゃ赤司くんを幸せになんかしてあげられないんだ。赤司くんを苦しませるばっかりなら、一緒に居たくないです」
「……何だ、それ」
「だから、」

 黒子をもう一度、抱き締める。

「あかし、くん……」
「馬鹿だな、ほんと」
「…………」
「オレは、黒子が隣に居てくれるだけで、幸せなんだよ」



 黒子の小さな唇に、優しいキスを落とす。

 甘い甘い、とろける様な口付け。

 それだけで、大丈夫。

 もう、言葉なんて要らない。

 それだけで、もう何も要らない。

 何度も何度も転びながら、

 何度も何度も躓きながら、

 これからも、

 ずっと隣に居れたら良い。

 いや。

 居るんだ。

 ずっとずっと、

 ずっと。




終わるなんて言わないで
(あなたとの日々を、過去になんてしたくない)








end

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