黒バス
□魔法の呪文はI love you!
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話し始めに、いろいろ脳内処理が滞るくらいおかしな状況にあるから、これは例え話でしたとか夢オチでした的なことになる覚悟をしておいてくれてもいいかもしれない。
「赤司くん、なに考えてるんですか……?」
――と、背中の温もりからのびてくる手がオレの腹をホールディングして、肩に尖った感覚が乗る。黒子の顎だ。
「っ、なにって……」
「ボク以外のことですか?」
「……いや、黒子のこと……」
「じゃあ、いいです」
(ああもう、なんだこれ……)
黒子が壊れた、と言っても過言じゃないくらい、きょうの黒子は変だ。
どう変かって聞かれたら、それは今までの言動だけでわかっていただけるだろう。
きょうの黒子は背中のチャックを開けたら別人が入っていると本気で信じられるくらい、甘えん坊だ。
オレの手やら足やら胸やらをペタペタ触ってはふにゃっと笑って見せたり、オレの肩にその小さな頭を預けてみたり。
そんな黒子に慣れてないせいか、情けないことに、その度オレの心臓は爆発する勢いで跳ね上がっている。つまり鼓動回数が多すぎてきょう中に死ねる予感がしなくもない。そんな思考に落ちてしまう程度には狼狽えている。
もうずっと顔が熱い。
黒子が触った場所がじんじんする。そういえば、きょうはまだちゃんと黒子の顔を見れていない。一日に何度もしてたキスすらしていない。
ただ、ずっと黒子には触っている。
ずっと必ず身体のどこかに、黒子の温かさがくっついている。
不意に耳元に吐息を感じて、心臓が跳ねる。それを感じた黒子がくすくすと笑う。
「赤司くん、心臓早いです」
「うるさいな……」
掌が上がってきて、そっと胸に重なる。う、変な気分。
でも、そんなことより、黒子がなにを考えているかってことのほうが気になる。こんなことをして、なにか、企んでいるとしか考えられない。
「……黒子」
「なんですか?」
「なに企んでるんだ」
「……ふふ」
なんだか意味深に笑ったまま、黒子は口を閉じてしまった。くそ、気になる。
「黒子、いい加減に……」
しろ、と振り返った途端、チュッ、と頬が変な音を立てた。
(……っ、なんだ! なんだこれ!)
い、今のは、ほっぺにチューってやつじゃないか。やばい死ぬな心臓!
「く、くろっ、……くろっ」
「桃井さんに」
「こっ、は……、桃井、さん?」
いきなり元マネージャーの名が黒子の口から出てきて、少し頭が冷える。ようやく視界が現実らしくなってきて、黒子の身体の感触も遠くなっていく。
「桃井……?」
「はい。桃井さんに、相談したんです」
なにを、と聞けば、無表情が一転、すごーくたのしそうな顔で、「相も変わらず異色の大魔王、赤司征十郎を倒すにはどうしたらいいか」と言われた。
「こんなにあからさまに目の前で悪口言われたのは初めてだな」
「やりました赤司くんの初体験もらいました」
「棒読み」
どうやら、うちの黒子はオレを倒したかったらしい。ラスボスか。
「それで? 桃井、なんて言ったんだ」と促す。すると、また黒子の手がオレの腹にまわってきて、ふわりと黒子の匂いが空気を満たした。
「甘えまくれば、勝手に心臓止まるんじゃないかな、って」
「……エスパーだな、あいつは」
ふふ、と黒子が笑って、また優しい匂いが近くなる。どうにも、きょうは黒子には勝てそうにない。
でも、みすみす負けるのはやっぱり出来ない。ぴっとりと背中にくっついてくる身体を感じながら、仕返し代わりに天井を仰ぐ。
途端に、ゴンッという音と「赤司くん、痛いです」という大すきな人の声がして、思わず、オレも笑ってしまった。
魔法の呪文は
end