黒バス

□きらり、愛の色
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「だから、きょうはだめだって言ってるじゃないですか!」

 ベッドの上で、男子高校生がふたり、全身を使って取っ組み合いをしていた。
 もちろん、ケンカやプロレスごっこ……なんて、かわいい理由なんかじゃない。

「あさってからバスケ部の合宿なんです!」
「だからって拒否する理由にはならないだろう」
「だって赤司くん、絶対痕付けるじゃないですか」
「付けるよ?」
「ばか、赤司くんのばか!」

 いくら虚勢を張ったって結局、力じゃ敵わない。
 背は同じくらいなのに彼の方が筋肉質で、体格もいい。非力なボクじゃ、結局組み敷かれてしまう。
 まだ何もしてないのに、ボクの息はぜいぜいと上がっていた。それに比べて、息の一つも乱していない赤司くんは不服そうだ。

「キスマーク位見せつけてやればいいじゃないか」
「何言ってるんですか、だめです」
「きっと誰もオレが付けただなんて思わないよ」

 その赤司くんの言葉に、うっ、と何も言えなくなってしまう。
 赤司くんは、別にバレたって構わないと言ってくれるけれど、ボクは赤司くんとの関係をキセキ以外の誰にも明かしていないから、(火神くんにはお喋り黄瀬くんのせいでバレてしまったけど)不誠実なようで、彼に申し訳なくて、いつも後ろめたく感じていた。
 赤司くんの恋人であること、それはボクにとって、本当に誇らしくて、幸せで、暖かくて、いつでもいっぱいの愛しさで心を埋め尽くす。
 本当は世界中の人達に言いふらして自慢したいくらい、赤司くんが大すき。なのに僅かに残る背徳感が、まだボクの心のすみで痼りになっている。


 手を伸ばして、眉を寄せる赤司くんの髪を撫でた。


「ごめんなさい……」
「……意味無く謝らないでくれないか」
「赤司くんのこと、胸を張って恋人だと、言えればいいんですが」
「……」

 ボクは心からそう思って言ったつもりなのに、赤司くんは怪訝そうな目でこちらを窺っている。吸い込まれそうな鋭い双眸に見つめられて、ゆるい目眩が襲う。
 くらりと揺れた脳が、赤司くんの声により、現実に引き戻される。

「黒子、お前はまた一人でくだらないことを考えてるのか」
「……くだらなくないです」
「どっちにしたって、考えても無駄なことを考えても無駄だよ」
「日本語変です、赤司くん」

 赤司くんは大きくため息をついて、立ち上がった。彼の機嫌を損ねてしまったことは申し訳ないけれど、考えても無駄なことを考えてしまう性分なのだからどうしようもない、と思う。
 振りかえらない背中に、そっと聞いてみた。


「一度、誠凛に来てくれませんか?」

 白けたように細められた目が、振り返りボクを見た。
 どうせ本気じゃないと思ってるんだろう。でも、もし今、赤司くんがイエスと言えば、恋人としてチームメイトに君を紹介するきっかけになるかもしれない。だから、


「じゃあ、オレのことを『お付き合いをしている彼氏の赤司くんです。夜は自分が女役で、ディープスロートは彼に仕込まれました』って紹介してくれ」
「なっ、出来ません!」
「出来もしないことを口にしない方がいいよ」

 あっさり心を読まれて、自分の短絡さに情けなくなる。やっぱり赤司くんは全部お見通しで、ボクが自分自身で気付けない、ボクの心の内まで見透かしていた。
 別にみんなに知らしめる理由なんて、ないと言えばないのだけれど、大切な人達に黙って、こそこそするのはいやだった。

 しょぼんと小さくなっているボクに、赤司くんが近付く。
 再び押し倒されて、ベッドが軋んだ。だけどボクは、今度は抵抗しなかった。
 目を閉じて、降ってくる唇を受け入れる。赤司くんの首に手を回す。

「あまり、痕付けないで下さいね」
「……無理だね」

 そう呟いて、赤司くんは思い切り、ボクの首筋に噛みついた。





きらり、愛の色
(肌色によく光る赤い赤い愛の痕)





「赤司くんのばか……やりすぎです」
「なにが?」
「こんなにたくさん付けて、どうやっても隠し切れません」
「大丈夫だよ、黒子のチームメイトはみんな、とっくに気づいているさ」
「……はい?」
「今まで何度も付けてたんだ。黒子は自分で見えないだろうけれど、第三者からは見える所に」
「な…………」
「だから見られたって今更だよ」
「…………です」
「黒子?」
「最悪です! やっぱり全部分かってたんですね!」
「……オレの目の届かない場所にいるんだ、お前に所有印を付けてオレのものだと主張するのは当然の事だろう」
「で、ですけど……」
「反論があるなら聞くけど」
「…………そんなことしなくても、ボクは赤司くんのです」
「……!」









end

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