黒バス
□sweet!
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「赤司くん赤司くん、ケーキでも買って帰りませんか」
駅の中に小洒落た小さなお店を見つけて、立ち止まる。赤司くんの服の裾を引っ張って引き止めた。
「別に、いらないだろう。誕生日でもクリスマスでもないのに」
帰ろうとさっさと帰路を目指す赤司くんの服をぐいぐい引っ張る。
「いいじゃないですかたまには」
「……珍しいな、黒子がケーキなんて。なんかあるんだろ」
「別になにも……」
「黒子はオレに隠し事出来ると思ってるのかな?」
かわいい顔でにっこりと笑ってみせる赤司くんに背筋が凍る。なんでこの人は昔っからこの童顔でこうも禍々しく笑えるのだろうか。
「……黄瀬くんが」
「黄瀬が?」
「ここのケーキおいしいって言ってたから気になっちゃったんです」
「チッ、余計なことを……」
少し不機嫌な顔で舌打ちをして、「三分だ」と、三つ指を差された。意味が分からなくて首を傾げると、赤司くんが自分の腕時計を指差す。
「三分待ってやろう。それ以内に戻って来なかったら……」
「行ってきます!」
入り口のベルを鳴らしながら、店に駆け込む。やっぱり一般的なそれと比べると随分と厳しく思えるだろう。けれど、あれでも昔より大分穏和だ。キセキのみんなや、赤司くんを知っている人が聞いたら、あの"赤司"が少しでも人を待つなんて、とひっくり返るだろう。
「きゅーう、はーち、なーな、ろーく」
「赤司くん、お待たせしました」
「…………ごーお、よーん」
「ちょ、ちゃんと間に合ったでしょう。何でカウント進んでるんですか」
「……冗談だ。首の皮一枚繋がったな」
ボクをちらと一瞥し、詰まらなそうに息を吐く赤司くん。
「君の冗談はリアルで怖いです」
なんだかどっと疲れて、ボクは赤司くんと違う意味で息を吐く。
「もうちょっと急ぐかと思ったんだが、思ったより遅かったな。混んでたのか」
「いえ、レジの前に居たのに気付いて貰えなかったんです」
「相変わらずだな」
赤司くんが綺麗な緋色の瞳を細めて、少し口元を和らげる。ボクだけに見せてくれる穏やかな表情にちょっとだけきゅんとした。
「……ところで黒子」
「なんですか?」
「袋が二つあるように見えるのはオレの目の錯覚かな」
「い、いひゃいでふ、あはひふん……!」
あの穏やかな顔は何処へ。件の禍々しい笑顔を浮かべながら、赤司くんがボクのほっぺをつねり上げる。情けないながらも、涙目になりながら首を振ると、ぱっと手を離し、赤司くんは全く、と腕を組んだ。
「赤司くんいちいち暴力的すぎます……」
「何か言った?」
「独り言です」
手刀を構えた赤司くんに、勢い良く首を振った。
「はいどうぞ、赤司くんの」
そうして、一つのビニールをずいと赤司くんの目の前に差し出す。
「なんとケーキ屋に和菓子も売っていました。赤司くん、和菓子の方がすきでしょう?」
笑ってそう言うと、赤司くんは二、三回瞬きをして、長い溜め息を吐いた。
「それでわざわざ袋分けさせたのか。資源の無駄遣いも良いところだな」
「良かれと思ったのにこの言われようですか」
「二つともオレが持つよ。黒子だと潰れそうだ」
「ちゃんと真っ直ぐ持ちます。大丈夫です」
「持ってやるって言ってるだろ? 貸せ」
結局、ケーキも和菓子も赤司くんに持ってかれてしまった。だけど改札へと向かうその背中を見つめて、ああ、あれも彼なりの優しさなのだと、勝手に思い込むことにした。
繰り返す毎日の中で、君と築き上げて行く何気ない小さな幸せ。
ありふれたように見えて、本当は何よりも特別なんだってこと。
誰よりも、君は分かってくれているはずだから。
帰ったら、いっぱい甘えてみよう、なんて。甘い袋をぶら下げる赤司くんを追いかけた。
sweet!
「ところで、黄瀬にあの店教えられたらしいけど、メールか電話だろうな? まさかオレのいない間に二人で会ってないよな?」
「え? 会いますよ?」
「……なんで」
「あ、別に約束とかしてるわけじゃないんですが、なんかボクの行く所行く所現れるんです。まあそんなの昔っからなんですけど」
「そうか。仕方ない。殺すしかないな」
「あ、黄瀬くんからメール」
「消せ」
* * *
あとがき。
赤黒同棲!でもあまり同棲設定をいかせませんでした。まあいつもの事です。
大学生でもいいし社会人でも美味しいなあ!
黒子にベッタベタに甘い赤司もすきだけど、何かといじめちゃう赤司もすきなのです。つまりもうほんと、二人が幸せならなんだっていいんだよね。私ってばつくづくこだわりのない人間で嫌になります。
読んで下さった方、ありがとうございました!