ふぉー
□触れたがり
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「なぁ黒子」
「なんですか?」
にかっと白い歯を見せて明るい笑顔を向けてくる火神くんとは真逆に、ボクは冷を帯びた視線をお返しした。
火神くんがこういう顔をする時は、馬鹿なことを考えていることを、過去の経験から導き出した結果だ。
「指相撲すんぞ!」
馬鹿も大概にして下さい。
火神くんが親指を立てて迫ってくるのを拒否しながら、ため息を吐く。さっきから「指相撲指相撲」と鳴く虫がうるさくて仕方がない。
「おい、指相撲」
「うるさいです。なんでそんなことしなくちゃいけないんです」
「理由なんかねえよ!」
「ないんですか」
勘弁してください、と叫び出したくなる。
どうしてボクの光はバカばっかりなのだろうと不思議になる。
「やろーぜやろーぜやろーぜ」
「火神くん、うざいです」
「指相撲! すんぞ!」
「……分かりましたよ」
それでも結局火神くんの言うことに逆らわない自分に呆れる。……決して、それが嫌じゃない自分なんか認めない。
嬉々として火神くんが左手を差し出す。
ボクは眉を顰めた。
「左でやるんですか?」
「俺がまともに利き手でやって、お前が相手になるわけねえだろ? そうじゃなくても相手になんかなんねーだろうけど、せめてものハンデだよ」
「色々とムカつきますが、それは意味がありません。火神くんが左手ならボクも左手を出さざるをえませんよ」
「だから右で組めば良いじゃねえか」
「君が左手出してる限り、ボクが右手で組むのは不可能です」
「あ? なんで?」
あああもうこの馬鹿を寒空の下に追い出したい! それが出来たら、ボクの人生はきっともっと変わっている。
当て付けに右手で拳を作って、バ火神くんの左手にぶつけたら、
「……おお、ほんとだ」
とか呟いた。気付くのが遅すぎて、呆れを通り越して笑えてくる。
そしたら火神くんは、黙って右手を差し出した。
冷たい指が絡んでくる。
室内なのにこの指の冷たさが、外気から伝わる寒さを教えてくれる。ここまで寒いと、引きこもりになってしまいそうだ。(バスケのためなら、いくらでも動くけど)
「よし、じゃあ十押さえた方が勝ちな」
「はい」
火神くんの指に力がこもったのが分かった。
ああ、ボク何やってるんだろう。そんな思いは、初めの合図に掻き消された。振り回されてイラついたので、負けたくないと思った。
真剣に二本の親指を見つめる火神くんには悪いけれど、早く終わらせたいと思う。
組んでいた人差し指を立て、素早く火神くんの親指を手前に倒す。
火神くんが「あっ」と声を上げたのを無視して、早口で十数える。
中学時代、黄瀬くんにも何度か使った手だ。
「終わりです」
指を解くと、すごい目で火神くんに睨まれた。思わず肩を竦める。
「黒子、せこいぞお前」
「指が勝手に」
「ずりい」
「エイリアンハンズって知ってますか?」
「無意識とか言いたいのかよ」
「おめでとうございます、大正解です」
火神くんの眼光が鋭くなる。さすがに怒らせただろうか。
ちょっとだけきまりが悪くなって、視線を落とす。
すると、大きな掌が右手の甲に触れた。おず、と瞳を上げる。
「火神くん……?」
「怒ってねえから」
瞬きする。
「怒ってない……ですか?」
「おう」
「どうしてですか」
「どうしてって……」
「あんなに指相撲したいって言ってたのに、こんな風に終わらされて、普通怒るじゃないですか」
「おう、だから」
「……え」
ぐいっと右手を引かれ、無理やり火神くんの右手と組まれる。
ちょっと、嫌な予感がしなくもなかった。
「あの、火神くん?」
「あ?」
「何なんですか、これ?」
冷や汗が背を滑っていく。冬に汗をかくことになるなんて。汗の原因火神大我はまた件の笑顔を浮かべた。
「もう一回戦やればいいだろ」
この腕を振り回して、窓からこいつを投げ捨てたい。
触れたがり
「……ほんとに思いつきなんですか?」
「何が?」
「指相撲」
「……そんなわけねーじゃん」
「?」
「……黒子の手に、触りたかったから」
「…………バ火神くん」
顔が暑いのは寒さのせいだ。
end
* * *
あとがき。。
リクエスト頂いた仲良しじゃれあう火黒ですー(^^)
あれ、な、仲良し……!?
せっかく黒バスリクエストして下さったのにお待たせしまくって本当に申し訳ありませんでしたびすけさんん……!
リクエストありがとうございました!