星矢

□目は口ほどに
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 瞬はあえて脇を見ていた。目の前には涼しい顔をして座る氷河がいる。
 普段ならば向かい合って話をするのだが、生憎と今の瞬には、余裕が無かった。氷河の熱視線から逃れようと、必死なのだ。

「……氷河」
「ん?」
「そんな見つめられると、穴開いちゃう……」
「問題ない。そうなったら其処を塞いでやる」
「何処をどうやって! もう、落ち着かないからやめてよ!」

 そう言って瞬は座っているソファーで背もたれにしていたクッションを引っ張り出し、姿を隠す為盾にした。それでも氷河は視線を逸らさない。
 クッション越しにも感じる氷河の視線が、全身に突き刺さるようで痛かった。
 きょう一日ずっとこんな調子だ。何も言わず、ただ見つめるだけ。初めのうちは負けじと瞬も見つめ返したが、早々に目を逸らしてしまった。あまりの熱い視線に照れくさくなったのだ。
 睨めっこのつもりでもこれだ。それ程までに氷河の視線は一点集中で熱いのだ。

「も、もう! やめてよ……何なの、きょうの氷河、変だよ……」

 未だクッションは盾にしたまま。それなのに先程よりも一層強い視線を注がれているような気がして、瞬の手は震えた。身体が熱を帯びていくのを感じて、少しだけクッションを握る指に力が籠められた。

「瞬」
「な、何?」
「……指が赤い」
「う……」

 氷河の視線が熱い。ただ黙って見つめられる状態に、瞬は翻弄されるばかりだった。これなら睨みつけられる方が幾分マシだとさえ、思えてならない。

「顔も赤いんだろうな」
「……う、ば、ばか! 見ないで!」
「断る」
「氷河のばか……!」

 クッションのその向こう側で、白い肌を熟れた果実のように真っ赤に染め上げているだろう瞬を思いながら、氷河は見つめ続けた。
 その目は穏やかだった。それでも、瞬に向ける眼差しは強く、熱い。目で語るのは容易かった。


(言葉は面倒だ)


 氷河は自分自身、不器用な自覚がある。言葉にはいつも不要な冷たさを籠めてしまう。しかし、その青い瞳は正直だ。腹が立った時は睨みつける。奇妙なものには白い目を向ける。美しいものには見惚れる。そして。心底、愛しいと感じるものには。

「瞬」
「……なに」
「かわいい」
「は……!?」

 瞬は反射的にクッションを脇にずらし、思わず氷河を見てしまった。一体何を言い出すのだと言わんばかりの瞬の目を射抜き、氷河は変わらず見つめる。目と目を合わせてしまった以上、逸らす事は許さないと言うかのような視線に、瞬は戸惑いながらも逸らせずにいた。氷河の目に、自分が映っている。視界を占領している。

(今はぼくだけを見ている……)

 その事実に瞬は照れくささをも超えて、ただ打ち震えそうになった。
 目は口ほどにものを言う。
 言葉に出さずとも、目だけで人は気持ちを訴える事が出来るという。
 それならば、と。
 二人は見つめた。ひたすら、見つめていた。“愛しい”と、目で伝えながら。

 気付けばクッションは膝元に置かれていた。



*目は口ほどに*

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