星矢

□トリの糞
1ページ/1ページ



「瞬」
「なに?」
「きょうのオレには近付かないほうがいい」
「え?」

 眉を顰めて氷河を見る。
 いや、近付かないほうがいいとか言いながら、もうしっかり隣を歩いてるんだけど。

「どういう意味か説明してくれる?」
「……すぐに分かる」

 分かんないよ。すぐ分かるって、なんだろう?
 ぼくが眉間にシワを作ったのに気付かず、氷河はさっさと歩いて行ってしまう。
 ぼくも仕方なく、小さく息を吐いて、その背中を追いかけて再び隣に並んだ。

「瞬!」

 いきなり呼ばれる。そして、どんっと押し飛ばされた。

 べちゃ。

…………なに?
 なにかが降ってきた。雨?
 いやいや、空、かんかん照り。
 元いた場所を見る。そして思わず、さっきとは違った意味で眉を顰めた。


「トリの、糞」
「だから言っただろう」

 氷河が息を吐きながら、頭を掻く。

「きょうのオレは最強に運が悪い。だから、あまり近寄るな」
「運が、悪い……?」
「ああ、あの時お前はいなかったが、朝テレビでやっていた星座占いが11位だった。バルコニーに出ればトリの糞が落ちて来る。何もない所でぽこぽこ転ぶ。外に出ればトラックが泥水を引っ掛けていく。全く、とんだ災難だ」
「そ、そんなにトラブル吸引してるの……? まぁ、12位じゃなくてよかったね」

 ぼくがそう言うと、氷河が首を振った。

「甘いな、瞬」
「なにが?」
「12位なら、まだラッキーアイテムとか、そういうのを教えてくれるだろう。なのに11位はなんの救いもないんだ」
「へぇ……」

……というか、氷河って、そういう占いとか信じるんだなぁ。なんか、変なの。

 ぼくがそんな事を思っていると、氷河が「だから、」と言葉を続けた。

「だから、あまり近付くな。瞬まで巻き添えを喰らうかもしれんからな」


 ああ、そういうことか。
 氷河の気遣いに、少しだけ胸が温かくなる。

(馬鹿だなぁ、氷河)

 ぼくは氷河の腕に、自分の腕を絡ませた。

「な、瞬! オレの話を聞いていたのか?」
「うん。聞いてた」
「ならどうしてっ」

(馬鹿だなぁ、氷河)

 そんなこと言われて、ぼくが君を遠ざけるなんて、本当に思ってるの? そんなの。

(ぼくが君に引っ付いている理由が、増えるだけだよ?)


「二人で背負えば、不運も半分で済むと思わない?」
「瞬……」

 僅かに紅潮した彼の顔を見て、思わず笑う。珍しいって事もあるけど、なんだろう。なんかすっごく可笑しくて。
 きょう一日、ぼくも氷河のトラブル吸引体質に付き合ってあげる。
 だからこの手を、絶対離しちゃだめだよ。
 約束だからね、氷河。

「でもトリの糞はちょっとやだなぁ」
「……あ」
「え?」

 べちょ。

「……良かったな、瞬。セーフだ」
「やっぱりぼく、氷河から離れてる」
「……」




*トリの糞*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ