星矢
□トリの糞
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「瞬」
「なに?」
「きょうのオレには近付かないほうがいい」
「え?」
眉を顰めて氷河を見る。
いや、近付かないほうがいいとか言いながら、もうしっかり隣を歩いてるんだけど。
「どういう意味か説明してくれる?」
「……すぐに分かる」
分かんないよ。すぐ分かるって、なんだろう?
ぼくが眉間にシワを作ったのに気付かず、氷河はさっさと歩いて行ってしまう。
ぼくも仕方なく、小さく息を吐いて、その背中を追いかけて再び隣に並んだ。
「瞬!」
いきなり呼ばれる。そして、どんっと押し飛ばされた。
べちゃ。
…………なに?
なにかが降ってきた。雨?
いやいや、空、かんかん照り。
元いた場所を見る。そして思わず、さっきとは違った意味で眉を顰めた。
「トリの、糞」
「だから言っただろう」
氷河が息を吐きながら、頭を掻く。
「きょうのオレは最強に運が悪い。だから、あまり近寄るな」
「運が、悪い……?」
「ああ、あの時お前はいなかったが、朝テレビでやっていた星座占いが11位だった。バルコニーに出ればトリの糞が落ちて来る。何もない所でぽこぽこ転ぶ。外に出ればトラックが泥水を引っ掛けていく。全く、とんだ災難だ」
「そ、そんなにトラブル吸引してるの……? まぁ、12位じゃなくてよかったね」
ぼくがそう言うと、氷河が首を振った。
「甘いな、瞬」
「なにが?」
「12位なら、まだラッキーアイテムとか、そういうのを教えてくれるだろう。なのに11位はなんの救いもないんだ」
「へぇ……」
……というか、氷河って、そういう占いとか信じるんだなぁ。なんか、変なの。
ぼくがそんな事を思っていると、氷河が「だから、」と言葉を続けた。
「だから、あまり近付くな。瞬まで巻き添えを喰らうかもしれんからな」
ああ、そういうことか。
氷河の気遣いに、少しだけ胸が温かくなる。
(馬鹿だなぁ、氷河)
ぼくは氷河の腕に、自分の腕を絡ませた。
「な、瞬! オレの話を聞いていたのか?」
「うん。聞いてた」
「ならどうしてっ」
(馬鹿だなぁ、氷河)
そんなこと言われて、ぼくが君を遠ざけるなんて、本当に思ってるの? そんなの。
(ぼくが君に引っ付いている理由が、増えるだけだよ?)
「二人で背負えば、不運も半分で済むと思わない?」
「瞬……」
僅かに紅潮した彼の顔を見て、思わず笑う。珍しいって事もあるけど、なんだろう。なんかすっごく可笑しくて。
きょう一日、ぼくも氷河のトラブル吸引体質に付き合ってあげる。
だからこの手を、絶対離しちゃだめだよ。
約束だからね、氷河。
「でもトリの糞はちょっとやだなぁ」
「……あ」
「え?」
べちょ。
「……良かったな、瞬。セーフだ」
「やっぱりぼく、氷河から離れてる」
「……」
*トリの糞*