星矢
□Kiss
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何気無い時であったとしても。顔と顔が近付いて、オレが曲線を描く顎に指をかけたら、それは口付けるという意思表示。
この動作をするのは一度や二度では無い。とっくに身体も繋げているし、恐らく瞬の身体は瞬以上に見ているし知っている。
「……瞬」
不機嫌に名を呼んだのは、口付けようとした瞬間、瞬が顎を引いたから。
「だ、だってっ」
瞬はいつまで経っても慣れてくれない。どころか、益々焦れったい程に照れるようになった。いつまで経っても生娘のようで。いい加減、空気を読んで流れに身を任せられないのか。
「瞬」
「ま、待ってよっ、まだ心の準備が……っ」
狼狽しながらも瞬の手は、自らの顎に掛かるオレの指を剥がそうとしたり、目を逸らしたりと見ていてもどかしい。仕舞いにはオレとの距離を取ろうと両手を翳す。
「動くな」
「へ、ひゃあ待っ、うっ、いひゃぁ……っ」
痛い、と言いたかったらしい瞬の開いた口内に、あざとく舌を滑らせれば後はもうこっちのもんだ。
思いっきり顎に掛けた指に力を籠めて顎を固定し、本人の意思など無視して荒く噛み付いてやった。強引だった分、唇に歯が当たって一瞬の衝撃があったが、そんなのは瑣末な事だ。
血の味がする口付けだって、何度もしている。飴玉の味も、甘ったるいクリームの味も、紅茶の味もあった。口付けても変わらないのは、瞬の遠慮がちに絡めるぎこちない舌だけだ。
「ん、ふぁ……ひゃ、あ、う……っ」
そして、色気を感じさせない間抜けな声は毎回音が違う。恐らく、口付けている最中にも関わらず、何か喋ろうとするから空気が漏れて間抜けに聞こえるんだろう。今回は戸惑いが大きい分、それがより顕著だ。
(どうしてこいつは、いつまでも子供のようにあどけないんだ)
恋愛事において、まるで情緒が無い。本気になっている自分が馬鹿みたいだ。
翻弄させようと手練手管を駆使しても、結局は瞬の無邪気さに振り回されている。踊らされている。苛つくのは、まるで必死なのが自分だけのように感じてしまうからだった。
(このまま本当に)
舌を、噛み切ってやろうか。
「ふぁあ、ぁん……」
「……っ」
そう思った矢先、切なげに眉を寄せて、珍しく艶っぽい声を上げたものだから。絡めた舌を甘く噛んで、そのまま無抵抗な唇を解放してやった。顎を掴む指も、今やただ添えるだけ。
今回は、これで勘弁してやろうか。
「……いつになったら慣れるんだ」
「ふぇ……痛い、噛まれた……」
結局、翻弄されるのはいつだって瞬のようでいて、オレの方なんだ。
*Kiss*