月映
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「第二次世界大戦は、一九四五年に日本がポツダム宣言を受け入れ……」
(そんなの、小学生でも知ってるだろ)
分かりきったことを繰り返す先生。青峰がぐうぐうと寝息を立てるのも分からなくはない。……でもやっぱり、いただけない。ただでさえ、こいつは授業について行けてないんだ。後でシメよう。
だけど考えてることはきっと一緒だ。早くバスケがしたかった。
部活後、毎日残って練習していたのに、近頃姿を見せない青峰が少し気になって、明かりの付いた第4体育館に向かう足並みを速くする。
再会を待つ風は、ある日と同じような、温かいものだった。
もう八時半も過ぎたが、季節は温もりを帯びていた。穏やかな空気が頬を撫でる。
「青峰、最近見ないと思っていたらこんな所にいたのか」
「あー、向こうの体育館は人が多くて……」
「まあ、どこで練習してもかまわないが……」
そこまで言って、青峰の後ろにいる少年に気付いた。
「……彼は?」
「ああ……、いつも一緒に練習してんだ。名前はテツ」
空色の髪、大きな丸い瞳、華奢な四肢。
彼の顔を、オレは覚えていた気がした。
月映
(死にゆく友へ綴った、盲目と、友情の物語)
終