黒バス

□ready?
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「黒子っち黒子っち、オレ今朝のおは朝録画してるッスよ!」
「え」
「ほらほらっ」

 そう言って笑顔でボクの耳にイヤホンを差し込む。片方はボクの耳。もう片方は黄瀬くんの耳。差し込まれていない左耳から、「黄瀬が人事を尽くした……だと……」とか聞こえてくる。緑間くんも大概単純だと思う。
 おは朝のお姉さんのよく通る声をボーっと聞いていると、すぐに十位の発表になった。赤司くんだ。

『十位はいて座のあなた! きょうは思わぬ油断で大変な目に合うかも、ラッキーアイテムは羽毛布団です!』

 赤司くん、ラッキーアイテムは布団らしいですよ。大人しく家で寝てて下さい。

 ちらりと赤司くんを見ると、思い切り黄瀬くんを睨みつけていた。また何かしたんだろうか。視線を赤司くんから黄瀬くんに移すと、黄瀬くんは赤司くんの視線に気付かぬ様子で、いつの間にかボクの肩を抱き、締まりのない笑顔。「赤司くんが怒ってます」と告げて取りあえず振り払うと、赤司くんは笑って頷いた。……なんなんだ。
 それより肝心の占い。残すところは十二位と一位の発表だ。

『十二位は、ごめんなさぁい……しし座のあなた! 友人のトラブルに巻き込まれて散々な一日になりそう!』

 火神く――ん!! 当たってます。ドンマイ。条件反射で火神くんを見る。……なにか余計なことを言ってしまったのだろうか。赤司くんにほっぺを抓られていた。

「黒子っち、次ッスよ」
「あ、はい」

『一位はみずがめ座のあなた! きょうは土壇場で頭が冴えるかも、実力以上の力が発揮できそう! ラッキーアイテムはサングラスです!』

 イヤホンを外して、ありがとうございますの言葉と共に黄瀬くんに返す。

「……黄瀬くん、持ってますか?」
「……家にならあるんスけどね〜」

 別に信じるわけじゃないけれど、信じないわけでもない。せっかくの一位だし、良いことを言われているのだから、やっぱり少しは信じたい。追い込まれてるし。火神くん当たってたし。
 だけど今この場にないものは仕方ない。このまま勝負に挑もうと顔を上げると、緑間くんがいた。

「ラッキーアイテムはなんだった」
「あ、サングラスです」
「……貸してやるのだよ」
「え……」

 す、と胸ポケットからサングラスを取り出し、ボクに差し出してくれた。

「緑間くん……」
「たまたま持ち歩いていただけだ。変装用にな」
「みどちんさぁ〜ほんとにそれで変装した気になってんの?」
「完璧なのだよ」

 そう呟いて眼鏡をくい、と上げる。こうなったらボクも人事を尽くそう、最後まで諦めない。
 サングラスをかけて、赤司くんに向き直る。

「赤司くん、勝負です」
「無駄な足掻きだな、黒子」
「勝負は終わるまで何が起こるか分かりません。もしかしたら途中で赤司くんがずっこけるかもしれないじゃないですか。君が言ったように、ボクは戦う前から諦めたりしません」
「……そうか。まぁずっこけはしないけどね」


……ボクには策がある。最後の策が。緑間くんのサングラスをかけた途端に浮かんだのだ。頭が冴えるかもと言う占い結果は確かに当たったのだった。ただ、赤司くんがそれに気を取られてくれるかどうか。

「火神、合図を頼む」
「俺ストップウォッチ係じゃねえのかよ」
「ああ、それは緑間に渡してくれ。お前は馬鹿だから押し間違えそうだ」
「とことん失礼だなテメェは!」
「オレは本当の事しか言っていないよ、早く用意しろ」
「あーもう! わーったよ!」
「すみません火神くん……」

 不憫だ、本っ当に。
 火神くんからストップウォッチを受け取った緑間くんが、50メートル先のゴールに歩いて行った。その後ろに紫原くんも付いて行く。


「さぁ、始めようか」

 スタートラインに二人で並ぶ。
両手を地に付けて屈み、クラウチングスタートの姿勢をとる。
 心臓が脈打つ。ごくりと生唾を飲む。

「ready……」

 火神くんの声が、耳に届いた瞬間、



「あ、しまった、パンツみえちゃいます!!」

 と言うボクの声と、

 ぎょっとして、赤司くんが横を見るのと、

「go!!」の合図と共に、ボクが飛び出したのが、

 ほとんど、すべて同時だった。
















 ぶつぶつ言いながら、赤司くんは部屋の窓をぞうきんでふき掃除する。
 ボクはベッドで雑誌を見ながら「次は、掃除機もよろしくお願いします」と言った。嘘みたいだ、あの赤司くんにこんな事言っちゃうなんて……!

 文句を言いながらも素直に働く姿に、…………あとで、ちょっと見せてあげてもいいかな……。なんて思ってしまった。











ready?








end
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