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□ひと夏の思い出、
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そのお伽話は、古くから語り継いでこられたお話し。

特に、意味をなす訳でもないのにずっとずっと語り継いでこられた不思議なお伽話。



100年に一度、夏の一夜にだけ、森の精霊たちが一つの木に集まって会合を開く。

精霊たちは、森の中で最も立派な大樹になりうる木に集まって宴を開き舞い踊る。

そして、精霊たちはその木が健やかに育つようにと体内のマナを木へと注ぎ、それはとても美しい光となる。



その光景を見ても願いが叶う訳でもなく、幸せになれる訳でもない。

ただ、この世のものとは思えない程に美しいと語り継がれているその光景。それは、世界中のどんなモノよりも美しい。

そう、語り継がれている。



ずっと、ずっと…。



ずっと、ずっと…。
























ひと夏のい出、



- Licht sie zweig -









〜 精霊たちの 一夜の宴

      集う場所は ひかりのえだ 〜





















「それで、そのお伽話の真贋を調べて頂きたいのです」

カーラーン大戦の停戦調停終結より4年の月日が流れたある日、ユアンはつまらなそうに窓から見える空を眺めていた。

カーラーン大戦停戦を成した自分たちは、大樹カーラーンがマナを失って枯れてしまったため世界を敵対していた2つの国で分けた。十数年後に軌道が重なるデリス・カーラーンからマナを大樹へと照射して大いなる恵みと呼ばれる種子を発芽させるのが当面の目標であり、いまは分けた世界の治安を守るために世界中を移動して過ごしている。

今日も昨夜に宿を求めて立ち寄ったこの小さな村で、村長と話しをしてる訳だ。内容としては、村おこしの名物となる可能性を秘めたお伽話の探求。

自分たちで勝手に探せと思ってしまうユアンにとっては、この話しは興味がない退屈な話しに過ぎず、大きな欠伸が出てしまった。





「ユアン…話しを聞いている態度じゃないわ」

すると、マーテルに睨まれた。

真面目というか、馬鹿正直ですらある彼女はこういう態度を嫌う。ユアンは反論こそしないが視線を逸らして、この話しに対する抗議の姿勢を見せた。

自分たちを便利屋扱いするのも堪に触るが、何よりもこの村周辺はハーフエルフに対して排他的だった場所だ。ハーフエルフというだけで差別して、傷付けていた連中が自分たちの功績に手のひらを返して頼み事をするなんて厚かましいを通り越してもはや罪だとユアンは思った。

しかし、ミトスもマーテルもどうやら乗り気らしい。クラトスは相変わらずのムッスリ顔で何を考えてるか判らないが、性格上賛成するに違いない。

窓の外、空を流れる雲を見ながらユアンは本日2回目の欠伸を隠すことなく盛大にしてやった。





「ふふっ、精霊が集まる木なんてはじめてだよ姉さま」



「まあ、1人は乗り気じゃないらしいがな」

村長の家を出て、森へ向かう道。ミトスは機嫌が良さそうにマーテルの周りをくるくると回っている。

それを微笑ましそうに眺めているクラトスの視界に、不意に普段より更に仏頂面のユアンが割り込んで来た。不満丸出しな表情で先ほどから一言も喋らない姿はまるで駄々をこねる子どものようでクラトスの表情に苦笑が浮かぶ。

そして、しばらく考えたクラトスはミトスに話し掛けた。納得してない仲間を放置するのは自分たちのスタイルではない。

クラトスが話し掛けるとミトスが振り返ってユアンを見つめた。そして、村を出てからも相変わらずな仏頂面を保っていたらしいユアンにジットリとした眼差しを向ける。





「もう…まだ納得してなかったのユアン?なんで人助けを嫌がるかなぁ」



「人助けが嫌なのではない!元々、ハーフエルフを差別してた奴の使いっぱしりなどごめんだと言っているのだ」

その、不満そうな眼差しにユアンは一瞬気圧されたように後退ったが、すぐにミトスを見下ろして腕を組んだ。その姿にマーテルとクラトスはくすくすと笑ってしまうが、精神年齢が近しいミトスは眉を寄せてユアンを見つめる。

お互い、相手を持論で論破する気らしくミトスとユアンの間に火花が散って、クラトスはマーテルを見た。すると、彼女は楽しそうに2人を見つめていてクラトスはため息をついた。

どうやら、気が済むまでやらせるつもりらしい。





「なら、ユアンはハーフエルフを差別しなかった人しか助けないの?人を助けるのに、理由を求めるの?」



「それは…だが、散々私達を迫害しておいて手のひらを返すのは汚いと言っているのだ。お前の威光にすり寄るなど甘いのだ」

ただ、勝敗の行方は明白だ。

自分たちはミトスについて旅をして、同じ理想を望んだ者だ。ミトスの善意の意見を覆すなどしたいとは思わない。

ユアンはミトス達を利用しようとする人間達を警戒しているだけだ。口では不満ばかりだが、彼なりの自分はしっかりとしようという意志は誰よりも強い。クラトスはユアンの意見に口元を緩める。

すると、ミトスは首を横に振った。





「利用したいなら、すれば良いんだよ。そうしたら、あの人達も少しはハーフエルフを見直してくれるもの」



「人間にゴマをするのか?それが、お前の言う差別無き世界の姿か?私達が人間のご機嫌を伺うような世界がお前の理想なら、私は失望する」

バチバチと火花を散らして睨み合う2人。

理想を語るミトスと、手の届く場所を守ろうとするユアンの意見はよくぶつかる。だが、それは互いを信じているからこその衝突でクラトスはそういう2人の関係を羨ましいと少し思った。自分はミトスの理想に自らの信念を見いだした者だ。このような言い争いにはなった事がない。

眩しそうに2人を見つめるクラトスを優しい笑顔で見ていたマーテルは不意に手をポンと胸の前で打ちつけて2人の間に割って入った。

そして、にこにこと嬉しそうに笑いながら2人の視線を自分に向けるように2人の瞳を交互に見つめる。





「はい、喧嘩しないの2人共。理由はどうあれ約束したのだから木を探しましよう。私、楽しみにしてるんだから」

マーテルが割って入った時点で、2人は黙った。

マーテルにジッと見つめられるとミトスもユアンも視線を逸らす。怒られてるようでバツが悪いらしく、本当に2人してまだまだ子どもだなぁと思いマーテルはくすくすと笑う。

そして、マーテルは森のあぜ道に一歩進むと木々を見上げる。あとは振り返って、笑顔を見せれば解決だ。きっと2人は約束を果たすという当たり前の事を優先するだろう。

マーテルの読み通り、彼女の笑顔を見た2人はしばらく惚けたようにマーテルを見つめた後、姉さまがそういうなら、だの一時休戦にしといてやる、だの言って互いに笑い合った。

そんな光景を、マーテルは眩しそうに見つめて柔らかく笑った。











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