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□雪夢に微睡み、幸せに手を
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「おはようミトス、マーテルさん。今日はいい天気だね」
晴れ渡る空の下、今日も元気のよい声が響いた。まだ、片付けきれてない瓦礫に囲まれているこの場所で、小さく芽生えた若葉にジーニアスは水をやりながら声をかける。
それは、新たに生まれたマナの大樹。まだ、大樹にはほど遠い小さな新芽。守人を引き受けたユアンの加護の元、いつか世界を満たすだろう希望の欠片。
世界を統合した仲間達は、こうしてたまにマナの大樹ユグドラシルを見に来るのが習慣となっていた。今日は天気も良くて、水を受けたユグドラシルもなんだか瑞々しいくて元気があるように感じてジーニアスの顔も自然とはにかむ。


「最近、ようやく瓦礫の撤去が進んでな、地中へと根が伸ばせるようになったのだ」
水を与えていれば、ユアンが隣へと歩み寄ってきて満足そうに微笑む。
この人も、なんだかよく笑うようになったとジーニアスは思った。生き残ったクルシスやレネゲード達をクラトスがデリス・カーラーンへと導いたので、ユアンはたった1人でこの大樹の為に働き続けている。なのに、昔は身に纏うように発せられていたピリピリした雰囲気はもう無い。きっと、満ち足りているんだと思う。


「さあ、さっさと帰れ。ここは私が守る。お前たちは世界に対する責任を果たす方が大切だろうが?」

「はいはい…うるさいなぁもお」
ちょっと見直したかもなんて思った途端、ユアンの笑みは消えて不機嫌そうに変わる。まったく、本質的には変わらない人だ。
だけど、ユアンの言葉は的を獲ている。自分たちは新しい世界を守るのが責任だ。なんだか、的を獲ているのがムカついたからおざなりに扱ってみれば、カンカンに怒ってユアンはどこかへ行ってしまい、ジーニアスは思わず笑ってしまった。
きっと、カーラーン大戦時代もこんな役回りだったんだろう。そして、それもミトスの幸せの欠片だったんだろう。ジーニアスはユグドラシルの芽を見つめると、優しく葉を撫でた。


「またね、ミトス」
【うん、またね。ジーニアス】
不意に、懐かしい声が聞こえた気がしてジーニアスは立ち上がった。辺りを見渡しても、勿論ミトスの姿はない。
幻聴かと首を傾げたジーニアスは、もう一度だけユグドラシルを見つめると歩き出した。


【ねぇ、こんな夢をみたんだ】
丁度、7歩目を歩んだ時、不意に風がジーニアスの髪を揺らした。
柔らかくて暖かい風にのり、今度は確かにそれが耳へと響いた。
瞬間的にジーニアスが振り返れば、小さなユグドラシルの前に少年が立っていた。透き通るような金髪を風に揺らして、手を前で握りながら笑うその姿にジーニアスは息を呑んだ。


【ねぇ、こんな夢をみたんだ。赤い雪は、暖かさに触れて水になり、土で清められ、空に還る。ほら、今日は空が近いよジーニアス】
ミトス! そう名前を呼びたいのに声が出ず、ジーニアスはただ立ち尽くした。まるで時が止まったように、体が動かない。なのに、涙だけは正直せり上がってくる。そんなジーニアスにミトスはもう一度、柔らかく微笑むと瞳を閉じる。
ゆったりと、まるで歌うように言葉を紡ぎ、空を仰いで満面の笑みで笑った。
そして、ミトスはジーニアスの前まで歩み寄ると、涙を指先ですくい優しくジーニアスの髪を撫でた。
その感覚をジーニアスは覚えていた。あの夜、感じた最後の温もり。
あの感覚は君だったの? そう、視線で訴えれば照れたような申し訳ないような表情で笑うミトスの姿。
あの夜の約束、ちゃんと届いていたんだ。
ジーニアスは流れ出した涙を、首を振って散らすと精一杯の笑顔をミトスに返した。

その笑顔を、瞳を優しく細めて見つめたミトスは背を向ける。
不意に、体が動くようになりジーニアスは手を伸ばした。



【ほら、空にさわれたよジーニアス】
その刹那、ミトスは消えた。指先は虚空を掴み、ついにミトスに触れる事は出来なかった。
だけど、ジーニアスの頭には1つの映像が流れていた。


大きく育ったマナの大樹の下、クラトスとユアンが座っている。
そこへ、マーテルが現れてユアンの顔が真っ赤に染まり、クラトスがそれをからかって2人は睨み合う。マーテルが困ったようにそんな2人を微笑みながら見つめると、ミトスが草原から走って来た。
ミトスがマーテルに抱き付けば、クラトスもユアンも呆れたような、見守るような表情で笑い、マーテルは優しくミトスの頭を撫でて、ミトスは照れたように笑っていた。

そして、ミトスはこちらを見る。
走り寄って来たミトスは、こちらへ手を伸ばして本当に幸せそうな笑顔で笑っていた。


【ありがとう、ジーニアス】
そんな声が聞こえた刹那、その映像は消え去って視界にはユグドラシルの芽と青々とした草原に戻った。
しばらく、呆けたように辺りを見渡したジーニアスはこぼれ落ちる涙を拭う。



「なんだ…まだ居たのか?」
不意に、ユアンの声で我に返った。
見れば、相も変わらず不機嫌そうなユアン。しかし、ジーニアスの涙を見てその表情は心配するものに変わる。ジーニアスは、しばらくユアンを見つめる。まるで、射抜くようにジッとユアンの瞳を覗き込んだ。


「な…なんだ?」

「ちゃんと守ってよね?ちゃんと、ちゃんと守ってくれなきゃダメなんだからね!」

「当たり前だ!なんなんだ突然!」
涙を流して自分を睨むジーニアスに気圧されたらしいユアンは思わず後退って視線を泳がせる。
大丈夫、彼なら守ってくれる。何故だかそんな確信が持てたジーニアスはにっこりと笑った。
そして、突然笑ったジーニアスに油断したユアンの表情が緩んだ刹那、ジーニアスは指を突きつけて睨みつけた。最後に、ベーっ!と舌を出せばみるみるうちに真っ赤になるユアン。
後ろから、怒鳴るユアンの声を聞きながら、走るジーニアスは空を見上げて腕を伸ばした。



本当だ、今日は空が近い。
伸ばした手は空には届かなかったけど、ジーニアスは確かにミトスに触れれた気がした。
ジーニアスは、瞳に残った涙を拭うと本当に嬉しそうに笑った。

うん、今日は空が近いよミトス。







ねぇ、こんな夢をみたんだ。
伸ばした手には何もなくて、ただ虚空をさまようだけ。欲しかった幸せはすぐ目の前にあるのに、ボクの手は触れる事さえ出来ない。
帰れない、幸せの虚像にボクは何度も手を伸ばして、結局ボクの手は何ひとつ掴む事はない。

そして、ボクは涙を流す。まるで子どものように首を横に振りながら、届かない幸せな居場所がボクに気付いてくれるように泣き喚く。
だけど、それは届かなかった。


これが、ボクが生きた道。
だけど、どうか哀れまないで?

ボクの幸せは此処にある。虚空の彼方に、確かにあってボクは今はそこに居る。
これは、確かにハッピーエンドじゃない。だけど、ボクの居場所は此処にある。

ほら、今日は空が近いよ?




ほら、幸せのカタチに、やっと手が届いた。









END
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〜 あとがき 〜

はいっ、ミトスのお話しでした♪これは、ミト&ジニというよりミトスの独白をジーニアスが見たような感じにしてみました。そう読めるかは判らないけどな+(Σぁ)
このお話しは、敬愛すべき素晴らしい相互サイトさまである『ひかりのえだ』の管理人、わっきー☆タピオカさまが日記にて書いたミトスを雪のようだと言った詩が、あまりにも綺麗で…文章化したいと思い考えたお話しです♪
ミトスが最初にみた夢と、最後にみた夢で言った言葉がソレです。

相互祝いには余りに乏しいですが、この駄文をタピオカさまに捧げますvV
では、タピオカさまへ最大限の尊敬と、ここまで読んでくださった皆様へ最高の感謝をv
ありがとうございました+(深礼)
08.11.11





雪きつねさんへ!!
このお話、本当に私が貰っていいのでしょうか…(といいつつもちゃっかり持って帰っている)
ミトスの心の琴線に触れたジーニアスの描写に、ぶわっときました。
幸せを感じるほどに辛そうで…ああああああ!!!切ない!!
無力で可哀そうな少年として接触してきたミトスですが、
ジーニアス達と触れあう中で少しでもその孤独が癒されていれば…と思います。
その小さなかけらを集めて、新しい幸せの形になるんでしょうね。。
本当にありがとうございました!これからもよろしくお願いします!!!

画像はお礼に捧げました写真です。
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