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□隠しもしない嘲笑は誰に向けられたものか。
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最悪だ。クルシスの輝石を装備しておけば良かった。
後悔先に立たず、詠唱の必要の無い初歩的な魔法を見舞わせ逃げてきたが。
歪む視界と思うように力の入らない身体を、気力だけで奮い立たせようとした。
思惑とは裏腹に身体は精神を裏切る。壁にズルズルと崩れ落ちた。
浅く荒い息と、今にも飛び出しそうに脈打つその音だけが今の現実。
お人よしの友達が探しているかもしれないが、こんな寂れた路地裏に来る訳が無い。
足音が次第に近づいてくるが、強烈な睡魔が襲い掛かる。
意識を失えば何をされるか分からない。
嗚呼、普段ならこんな奴等何が起こったか判らないうちに殺してやるのに!
もう一度立ち上がる。おぼつかない足取りで、壁に寄りかかる。
汚れたその手が壁の蔦を掴み、揺れる身体を支える。
歩き出したが、ずるりとその手が滑った。と、派手な紅い髪が翻る。
手袋の手が倒れこんだミトスの身体を受け止め、そのまま腕の中に細い身体を収めた。

『ミトス様、大丈夫ですか。』

口の端を笑みの歪めて、繁栄世界の神子は軽口を叩いた。
抱き込んだミトスの身体を壁へと押し付け、まるで恋人にするかのように金糸の髪へ口付けを落とした。
嫌悪を隠しもせず少年は顔を背けた。壁とゼロスの間に挟まれ逃げ場が無い。

『こ…れが…平気そうに…、見えるの…?神子。』

背けたままの瞳は逃れられない熱に潤む。
下手に玩ばれた身体が開放を求めて悲鳴を上げていた。
正直耳元で囁かれるのもきついのだが、多分ゼロスは確信犯だろう。なおさら性質が悪い。
余裕の無い支配者に対してゼロスは嘲笑する。

『ははは、クルシスの四大天使様も形無しってか』

『不可抗力だよ。どいて…神子』

瞳が高温の炎の様に怒りをあらわにするが、ゼロスは退く様子を見せない。
いい加減にしろと言わんばかりに目の前の男の身体を押そうと手をあげるが簡単に封じられた。
ミトスの首元に顔を寄せて、異質な匂いを嗅ぎ取った。


『何を使われたんですか?』

『さあ?でも意識を持っていかれそうだよ。忌々しい…。お前も早くどいて』

ミトスは歯噛みする。
が、ゼロスは相変わらずミトスを閉じ込めたままだ。
『恩人に向かってそれはないんじゃないのー?』と。

『最初から…見てた…んだろう?…性質が、…っ…悪い。』

吐息が混じる。服の中へゼロスの手が忍び込んできて柔らかな肌を撫でた。
悪びれる様子など全く無い。『ばれてましたか』とゼロスは笑う。
ミトスの衣の前を開き、幼い柔肌へ口付けを落とす。
あんなごろつき共に好き勝手されるのは死んでもごめんだが、
いつ誰が来るともしれない路地裏でゼロスに好き勝手されるのもたまったものじゃない。
しかし、壁と男の間に挟まれ不安定なまま、また薬の強烈な睡魔に襲われる。
意識が遠のいた所を、目ざとい男に唇を奪われ確かな呼吸さえ絡めとられる。


嗚呼、今日は最悪だ。






2009.8.8

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