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□英雄とうたわれる少年
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世界は大国に二分され、我々兵士達は日夜争い続けていた。
同時に邪悪な魔物達の襲撃も熾烈を極め、疲労困憊している我等を追い立てた。絶望は正に波の様に、我が国の南端の砦に魔物の大群が押し寄せた。
隊長が負傷したとの知らせを聞いたのはそんな時だった。
隊長補佐としてこの戦に参加した手前職務を果たせず腑甲斐ないが、皆が魔物との攻防に手一杯で加勢など出来るはずがなかった。
自分の隊を指揮し、辛くも魔物達を退けたが払った犠牲は大きい。
砦へと帰還する道程、「隊長ならばどのようにしただろうか」と何度と無く考えるが答えは出そうに無い。

砦へと帰還したが隊長の姿は無く、驚く自分の元へ「先に城に戻る」と伝言を受けた部下がやってきた。
どういう事か問うと…見知らぬ旅人達に助けられ、そのまま城へと一緒に向かったらしい。
そんな何処の馬の骨ともしらない輩に良くもついていった物だと溜息がでるが、それだけ動ければ無事だという事だろう。

「今、都で噂になっているミトス・ユグドラシルの一行だと思われます。隊長補佐」

「何?」





<<英雄とうたわれる少年>>




ミトス・ユグドラシルと言えば20年前頃現れた、ハーフエルフの剣士だと伝え聞いた。
その頃私はまだ幼く、父は若い兵士で戦場へと駆り出されていた。
ある日父は戦にて深手を負った。その時に現れ、動けなくなった父や他の兵士達を救ったのはまだ年端も行かぬ少年『ミトス・ユグドラシル』だったそうだ。
私は、父の語る少年とその仲間達の武勇に憧れていた物だ。

時を経て、私は父と同じく軍へと入隊したのだが、噂は幾度と無く耳にするものの、今の今までそれらに出会う機会は無かった。
城の廊下を、隊長の後ろに着いて歩いていた。
彼らは隊長の客人として城へ滞在している。
ミトス・ユグドラシルが隊長を庇い、傷を負ったらしい。魔界の物達の刃は普通には癒えないのだ。
癒える迄は安静にするようにと言われていたのだが、現在は起き上がれるまでに回復したらしい。
隊長へと懇願して漸く許された面会。私は逸る気持ちを押さえながら廊下を歩いた。
どんな男なのだろう。
あの頃は十代前半位と聞いていたから、現在三十は超えているはず。
美しい金髪の持ち主らしい。それ以外は尾鰭の付いたような噂話のみで、あとは私の想像だったが逞しい青年だろうと思っていた。
ハーフエルフは青年期で成長が止まるらしい。
それを聞いた隊長は「見て驚くなよ」と意味深に笑ってみせた。

隊長は細工が施された扉を三度ノックした。少しの間を置き、低い男の声が聞こえて鳶色の髪の青年が客室の扉を開き招き入れてくれた。
心臓が高鳴る。
クラトス・アウリオンだ。彼らの仲間で唯一の人間。
テセアラ軍の名隊長として名を馳せた英雄だ。
無言で招き入れてくれた彼の向こうには、若草色の髪が美しい女性、多分ミトスの姉マーテルが優しく微笑んでいた。
西日が窓より差し込み、逆光が橙色に室内を照らしていた。
マーテルの傍らに立つマントを身につけた男…、私の中のミトス像に一番近い人物であったが、長い髪を後ろで縛った男の髪の色は蒼かった。ユアンだ。
幼い頃より憧れた勇者達が目の前にいる。その感動に息をする事すら忘れていたのだ。
そんな私を尻目に、隊長は膝をつき、窓の前の椅子へ座る人物へと敬意を表す礼をした。
正直に言おう。失礼だが何かの間違いかと思った。



逆光で見えにくかったが、そこに座るのは少女にも見える、目を見張るように美しい子供だったのだから。金色の髪は夕日にキラキラと輝き、小さな身体には痛々しく包帯が巻かれていた。
意思を秘めた綺麗な青の瞳がこちらへと向けられた。
間違いない、彼だ。
些か幼すぎやしないだろうか。


「椅子に座ったまま申し訳ありません。」

困ったように笑顔を浮かべた手負いの英雄ミトス・ユグドラシルに、私はただポカンと馬鹿の様に口を開けていた。
隊長は「してやったり」といった顔で私に視線を送ってきた。

「ほれ、お前は何をしておる。」

その言葉で漸くつっ立ったままに気付き慌てて敬礼の意を示したが、少年は「いえ、そんな…」と慌てていた。

隊長は「貴方がいなければ私はここに帰還できなかったかもしれない。ありがとう、貴方には二度も助けられました」と、少年の手を強く握った。

そう、私の父…我が軍の隊長は、今回もミトス・ユグドラシルに助けられたのだ。
「あの頃より何一つお変わり無く、常々噂は耳にしておりましたがよくぞご無事で…!我が息子も貴方に逢える事を楽しみにしておりました」

再開を喜ぶ二人。父の言葉に、少年はどこか懐かしむ様な表情を浮かべた。

「あの時お話されていたお子さんが、彼なんですね。
はじめまして、ミトス・ユグドラシルです。」

英雄は優しく微笑む。
私の中の英雄ミトス・ユグドラシル像は粉々に破壊されたが、彼は易々とそのイメージを超えていった。
興奮にも似た感情に…思わずぞくりと背筋が震える。
少年だと一瞬でも勘違いした自分を恥じ入るばかりだ。
あどけない顔に浮かぶのは、遥かに年齢不相応な…正に英雄と謳われたその表情だった。








++人間として一番脂の乗った時期だと思われる、三十代ミトスをかきたくなりました。英雄なミトス。
続けてかけたらいいな…←根性なしめ。

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