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□come across
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「やめて…!お願いだから、そんな事はやめて!」

マーテルは、悲鳴を上げた。
数人の兵士達は、彼女の悲痛な叫び声には耳を貸さない。
建物の影に隠れて、誰にも気づかれることも無い。

「…ぅ…っ!」


「生意気なんだよ、ハーフエルフの癖に俺たちに楯突くなんてな!!」

「このガキがっ!」

小さな体が、堪え切れなくなった様に、小さく震えた。
マーテルは、脅えたように座り込んで何も出来ないでいた。
蹴り上げられたミトスは壁に打ち付けられた。
細く小さな体を丸めて、苦痛にその美しい顔を歪めた。

「げほッ…ごほ…」

苦しげに咽ると、やがてくたりと力なく倒れこんだ。
金色の髪で、その顔が隠れる。








ハーフエルフだからと、理由の無い暴力を受ける事も多かった。
特に、前線で戦う兵士達に、その傾向は顕著に現れた。
そう、戦争が奪うのは、生命だけでなく、その人間性すらも。
加害者すらも、大切な家族があり、守るべき大切なものがあり、それは誰もが一緒のはずなのに。





「ミトス…ッ!!」

マーテルの瞳には、いつの間にか涙が浮かんでいた。
どうして、こんな酷い事がこの世界で起こるのだろう。
兵士の脇をすり抜けて、ミトスの側まで駆け寄り抱きしめる。
少しの間、気を失っていた少年の瞼がゆっくりと開く。
マーテルは少しだけ微笑むと、新緑のような長髪が揺れた。

「止めてください。どうしてこんな意味の無いことをするの?」

「ハーフエルフの分際で人間に指図する気か!?図々しい奴めッ!」

「違います…。ただ、貴方達に聞きたいのです。
私達だって、貴方達と同じで、殴られれば痛いし悲しい時には涙が出るのに…
どうして!?」

マーテルは見上げ、凛とした声で兵士達を見た。
一瞬、兵士達は気圧された様に、お互いの顔を見回したのだが、
ハーフエルフが人権を主張するなど、彼らの中では在ってはいけない事だった。


「ハーフエルフが何かほざいてるぜ?なあ、どうする?」

「ふん、ムカつく奴らだな!我々と貴様らのような薄汚い種族の、何が同じだ言うのだ?思い上がるなよ!」


「!!…やめてっ!お願い…」

「ね…さま…!」

マーテルを、縋り付くミトスから引き剥がして、その頬を殴りつけようとする。
が、次の瞬間、マーテルに向かって振り下ろされた腕が反転した。
ぐるりと男は投げ飛ばされて、そこには長い青い髪を一つにくくった青年の姿があった。

そのユミルの湖畔の様な静かな碧の瞳で、兵士達を睨み付けた。


「女子供に、そうやって拳を振り上げるのは関心せんな。
そんな僅かな力をもってして、支配したような気になる…。
これだから人間は愚かな生き物だというのだ。」

青年は、ぐったりとしたミトスへと歩み寄ると、その体に手を押し当てた。
途端ミトスは、傷口に触れられた痛みに喘ぐが、青年はお構いなしにそれを続行した。
青年を中心に、マナが渦巻き、優しい光がミトスの傷口を包み込んだ。
助かった事よりも、青年から流れ込んでくるマナの光に、ミトスは安堵を覚えていた。
痛みが引いていく。回復魔法だった。


「貴様、俺達が何者か分かっていて、こんな事をしているのか…!」

青年のいきなりの出現に茫然自失となっていた兵士たちだったが、
相手がまたしてもハーフエルフである事に気づき、吠えた。

「フン、軍の威を借る犬畜生に答える言葉など持ち合わせていない。おい…立てるな?」

「はい…っ!………姉さま!」


ミトスは勢い良く立ち上がると、まだ座り込んだままのマーテルの手を引いて立ち上がらせた。


彼は、狭間の者らしからぬ、堂々とした立ち振る舞いで。
兵士へと背を向けた。




to be continue...?








*******





ユアンとの出会い。

意外に格好よく登場してみたものの、この後ずっこけたりすればいい。

イマイチ二枚目になりきれない男。ユアン。





2006.10.17

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