textページ

□君へ
1ページ/1ページ

ふとミトスはボクの顔を見て。

「どうしたの?」

首を傾げてボクの様子を伺う。
そんな柔らかで優しい笑みの中に含まれたものを見つけた。
探るようなキミの瞳に背筋が凍りつく。
やがてその空気を打ち消すように「おい、ジーニアス。いくぞ」ロイドがボクを呼ぶ。

「もう行っちゃうんだ。…また来てね」

そっと労わる様なミトスの手がボクの手に触れた。
……冷たい君の手。

「ジーニアス。」
『ジーニアス。』

空色のはずの君の目が、酷く冷たい瞳の天使に重なった。










『君へ』










ミトスはパルマコスタの灯台の元に一人立っていた。
暗い海の中を灯台の光が遥か遠くを照らし、その彼方を見つめる彼の隣へと立つ。
月も無くせめぎ合う様に星達が煌く。

「ごめんね。ニールさんにここに居るって聞いて、来ちゃった。」

いつもなら優しい微笑を浮かべて、挨拶を一言述べる彼は。
無言のまま、ボクの言葉に少しだけ頷いて見せた。



月の光を一心に集めたような彼の髪が揺れて。

「…ジーニアスはロイドの事、好き?」

灯台を背にした彼の表情を読み取ることは出来ず、少し硬い声に応える。

ロイドは親友だし兄弟みたいな感じもする。
小さな頃から一緒だったし。
宿題なんてやらないし、いっつもボクは教えてあげてるんだ、
と腐れ縁を語るボクのそばへ寄ると耳元で囁くミトス。

「ロイドは人間でしょ?
隠してたりしなかった?辛くなかった?」

いつもの柔らかい響きは無く、酷く淡々とした声色。
鋭い冷たさがボクの鼓膜をたたく。

「そんな事ないよ。最初は隠してたけど…ロイドは僕たちを変わりなく受け入れてくれた。」

やがて、「そう…なんだ…」と一言だけ呟いたミトスは、それきり言葉を切った。

やがてボクがその沈黙に耐えられなくなった頃、ミトスは「ジーニアス、かえろう」と踵を返した。
微笑むミトスはいつもの彼だった。





やがてミトスの正体を知る時がきて、ボク等は決定的な決別を迎えた。




ボクらが一緒の時間を過ごしたのは、ほんのわずかな時間だった。
それだけの時間を過ごしただけで、友達だと言うのは早急すぎる。
もっと相手の事を知って、自分の事を知ってもらって。それからだと。

けれど、あっという間に過ぎた時間の中で、ボクはミトスと同じ時間を過ごしていきたいと思えた。
それは真実を知ってからも、悲しかったけれど決して揺らぐ事は無い。



心に時間は必要無くて。





ボクはミトスのトモダチだ。
心からそう言えるよ。











++ずっとずっと友達だよ。


トモダチと言ったのは、嘘偽り無い気持ちだったんだろな。

ハーフエルフの無力な少年と、世界の最高権力者としてのミトス。

事実を突きつけられても、逃げなかったジーニアスは強い子だと思う。

信じるだけで馴れ合うのが友達じゃない。
悪いことを悪いといえるそんな真実を欲した強い子。




2008.10.19 加筆修正

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ