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□失われる世界。
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姉さまの白い手が、ボクの手を引く。
いつもと変わらず、マイペースな彼女は。
ユアンと、クラトスの静止の声を聞かず、
「ねえミトス。あっちにね、綺麗な花が咲いていたのよ。」
と、無邪気に笑う。

そうだね、ボクも見たい。

「ほら、ミトスだってそういってるんだから!二人とも、一緒に行きましょう」
しぶしぶ、歩き出す二人に、歩調を速める姉さま。
クラトスも、ユアンも。
歩調は重いけれど、まんざらでもない顔してて、おかしい。







木漏れ日の落ちる、森の小道を歩き続ける。
ゆったりとした時間が流れる。古里で過ごした年月に勝る、この風景。
人に与えられた時間は平等だけれども、この森を縫って伸びる道が永遠に続けばいいのに。
このまま時を止めてしまえればいいのに。
そう、おもった。


思えば、ヘイムダールを追われて、世界中を旅する自分達は、まるで行き急いでいたようで。
実際のところ、エルフの血をひくボクたちと、クラトス達人間とでは
過ごす歳月はまるで違っていて、人間とは儚いものだと。

クラトスと出会い、数年。
彼は、やはり人間の速さで命を燃やしていく。
やがて、ボクらを置いて、その一生を終えるのだろう。
エルフは、それが一番自然の姿だと。
そういうのだ。

そんなの、寂しいよね。





いつの間にか、クラトスはボクのすぐ横に立ち。
目の前には、一面の白い花。
マナを消費しすぎた、この世界の中で、力強く根付く生命達。
ボクは、この世界が好きだと思う。

『ミトス。綺麗でしょう?』

うん、凄く綺麗。ありがとう、姉さま。
実際の所、純粋に世界が好きなのではなく、姉さまというフィルターを通して。
初めて、美しく見えているのだけれど。
それでも、この世界を愛しいと思う気持ちに変わりはない。













見つめ返した姉さまの顔が、不意にゆがんだ。
やんわりとボクを抱きしめ、腕がふるえている。





『ねえ、ミトス。私の声は聞こえているのかしら?』

姉さま……どうしたの?……泣いてるの?

『無駄だ。今のミトスは、ただの人形だ。』

クラトスまで、何を言ってるの?

『……、人間共め!エクスフィアの人体実験にミトスを使うなど。』

苦々しく吐き捨てたユアンは、ボクの胸元へ触れる。
服越しに肌に触れられる感覚はなく、代わりに硬いものが肌の上へと押し付けられる感覚だった。
痛い。ユアン痛いよ。

うそ…。誰もボクの声、聞こえてないの?











『ミトスに埋め込まれたエクスフィアは、私が見た中は群を抜いて巨大だ。』

『どういうことだ?』

『生命体への支配の大きさも、巨大だということだ。』

クラトスは、ミトスの輝石へと視線を向ける。
心臓の場所へ埋め込まれたそれは、白い衣の合わせ目に隠れて見えないが。
目を開けてはいるものの、虚ろな瞳は何も映していない。
そして、その瞳すら、空の色を一心に集めたようだった水色の瞳は、
今はただ輝石の色と同じ翡翠だった。

『ミトスが元に戻る可能性は…。』

『現在ドワーフ族が目下研究中だが。……ほぼ絶望的だと考えていいだろう』

『諦めちゃだめよ、ユアン』

『マーテル』

『絶望、何て言葉。今までのわたし達の旅の中ではたくさんあったけれど
すべて、ミトスが覆してくれたの。今度は、私達の番なのよ。』

マーテルは、ミトスの手をやさしく握りこみ。

『ミトス、貴方は必ず治るわ。絶対治して見せる。』

何も映さない、人形へとやさしく語りかけた。





end



***





貴方が気づいてくれない世界なんて、無いと同じこと。
失われていく世界の中で、ボクは何ができるの?

天使疾患は、マーテルよりミトスの方が先になってそう。
そんな妄想の塊が具現化しました!
ねえさまにそんな怪しいもの、つけさせないんだから!!
とかね。

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