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□ダークなモノ書きさんに30のお題
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7.「君の声、痛い」







静かになった。


「…ミトス。もう、止めるんだ。」


血の海の上で、僕は一人立ち尽くしていた。
今まで人間であった物体を踏みつけ、
自分の手で、たった今まで生きていたそれらを壊したのだ。

震える手が、血糊が付いたままの剣の柄を必死に握り締めていたのだが、
グローブを嵌めた手が、それをいとも簡単に取り上げた。
握った所だけ、柄は綺麗なままだった。
そう、全て僕の手に赤い染みを作って。


「…ふふ、あはは…っ……!」


悲しみが度を越すと、何も感じなくなるのかも知れない。
未だ激しい憎悪と怒りに、心が打ち震えているのかもしれない。



「ミトスッ!」


視界がふらふらと揺れる。
驚愕して目を見開いた師…クラトスの顔が目の端に映り、
瞬間に、ぶつりと視界が途切れた。


…姉様、どうして僕を置いて逝っちゃうの?












膝を抱えて、身を守るようにベッドの上に座った。
姉様を殺した人間達に見境無く剣を振るった時でさえ出てこなかった涙が、
とめど無く溢れて膝を濡らす。
まるで引き千切られたような、喪失感。
暴力的なまでの感覚が、容赦無く襲ってくる。


「ミトス…少し横になれ。」

「…。」

何時の間に夜になったのか、暗い宿の一室で、
目の前にクラトスがいつもの様な感情の乏しい表情で僕の前に立つ。
いつの間に、部屋の中に居たのか。
もしかしたら、最初から居たのかもしれない。


「少しでも良い。目を瞑って、体を休めろ」

柔らかな樹木の幹を思わせる髪が、僕の頬に触れる。
抱き寄せられて、体がびくりと痙攣するのが他人事の様に感じられた。
声色も腕も込められた力は強いが、
包み込むような優しさだった。
寡黙な彼が、何度も言葉で僕を労わる。


「…ぁ…、クラ…トス…」


ありがとう…と紡ごうとした唇が、歪んだ。



「っ…出て行ってよ!!」

「ミトス…?」


違う、こんな事言いたいんじゃない。

「半端な優しさなんて、いらない!!痛いんだ!も…いやだぁ…!」

ああ、止めてよ。
そうだ、優しくされるたびに、激しく刺す痛み。
これじゃ、唯の子供の八つ当たりだ。
情けなくて、悔しくて、それでも自制心を失った僕は
汚い言葉を吐き続けた。



結局、その夜、クラトスは僕の体を抱きしめて、離さなかった。


「もう…眠るんだ。」




fin...






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