平和を願った花

□もしもの話
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「好きな人いるの?」

そう聞かれたから、笑顔でうんと答えた。色々あったけど今は一緒にいるよ。と。



「ねえねえ、女にとって一番の幸せってなんなのかなあ。考えたことある?」

そう問われたから、なんだろうねえ、解らないやと曖昧に笑った。彼女は言った。

「あたしはね、好きな人の子どもを産む事が一番の幸せだと思うよ」




「そうかもしれないね」





行きずりの知り合いだった。
たぶんもう会う事もない。住んでる所から遠く離れた仕事先で、ちょっと仲良くなっただけの子。

ティファやユフィだったらきっと。同じ事を思っていても、言わなかっただろう言葉。



「……でも私は………今は、そういうの考えられないかなあ」

「まだ若いもんねー。彼氏何歳?」


50歳。もうすぐたぶん60近く。

「27歳」

「年上じゃん、いいなあ」

「あはは、まあね」



彼は27歳。永遠に。
私は1年1年彼との差を縮めている。




きっと、子どもはつくらない。彼は異端細胞を持った母親と、子どもの、その末路を知っている。



―――いつか私も彼の歳を追い越して行く。


追い越し、私だけが歳をとり、そして次第に終わりへ近付いていく。彼がたどり着くことはないその場所へ私は戻り、そしてまた廻る。




それでも私が、他でもないこの「私」があの人を1人にするのかと聞かれると、きっと違うのだと思う。


彼が私を1人にする。





なんとなく。
その時が来たらあの人は、私たちの前からそっと姿を消してしまうのだろうと考えている。




そうやって、気付かれもしない遠くから、ずっとずっと。



私を、みんなを、みんなの子どもの、そのまた子どもの。行く末を、廻る様を、静かに静かに見守っているのだろう。








「………」

描いた未来があまりにも現実的すぎて、私は頭を振った。


「どしたの?」

「うん、なんでもない。
……その人のこと、絶対離してやんないて思っただけ」

「あははっ!彼氏のこと大好きなんだね」

「うん」

「……なんかいいねぇ、そういうの。あたしあんまりいい恋愛してないから、憧れるなあ」



……まだまだこれからじゃない、あなたきっと幸せになれるよ。
きっと、私が為し得ない方法で、あなたの望んだとおりに幸せになれる。そうでないといけない。


………そのために私達は戦ったんだもの。




「やだ、私だって喧嘩してばっかだよ。好きで大切なのに自分の考えてること押しつけてるの」

「はは、年下が時々我儘言うくらい可愛いもんだよきっとー!」

「そうかな」

「そうそう!」



この子の笑顔は好きだ。

自分のことを、自分の過去も今までしてきたことも知らない誰かが私を受け入れてくれると、不思議なくらいにほっとする。
こんなあけすけた恋愛話だって本当ならできない事だ。





「……ところでさ、あたし達どっかで会った事あったっけ」

「どうして?」

「いや、別に……なんか、なんとなく見かけた事ある気がするんだよね」

「………そうかな。会うのは初めてだと思うけど」





でももう、潮時らしい。

名前を偽っても何をしていてもやっぱり私は、私たちは特別な存在だ。何かの媒体で顔を見たことくらいはあるだろう。


「もうこんな時間。……付き合ってくれてありがと、私そろそろ行くね」

「まじ?ちょっと待って、連絡先」

「ごめんね、急いでるの。
……またこの街に来るからその時に」

「そう?」



それじゃあまたね。





そう言って別れた。








なんだか無性に声が聞きたくなって、携帯電話をとりだした。



ワンコールで出てくれる訳がないけれど、もしかしたらまたどこかに置きっぱなしで忘れているかもしれないけれど。





今から帰りますと、ただその一言を伝えたくて仕方がなかった。











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