海に恋した少年
□いきたい理由
1ページ/2ページ
頭の中は必死に悪者を作って
自分の都合のいいようにそいつを責め立てている
おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいでこうなったんだ
そうでないと自分が保てないから、何度でも何度でもそれを続ける。
誰が悪いのか
誰も悪くないはずなのに
何なのだろう、この結果は。
誰にもぶつけられない辛い気持ちを、耐え難い苦しみを、味わいながら先の見えない未来へ進まなければいけないのなら。
こんなに苦しくて苦しくてやりきれなくて、ばらばらになりそうになるくらいなら。
「もういきたくない」
こきゅうをしたくない。
すべてやめてしまいたい。
なくことも
かんがえることもしたくない
だっていきることはこんなにつらい。
「じゃあ死ねよ」
「………、」
不意にかけられた声に目を開ける。
――声で誰なのかはもう解っていた。
「死ねよ。おれが殺してやる」
すらりと刀の抜ける音に視線をあげると、切っ先がぴたりとこちらに向いていた。
そこには確かに殺意が込められているのに、不思議とそれ以上動く気はしなかった。
「どうしたい。
苦しんで生きてることを実感しながら死ぬか、眠るようにあっさりと死ぬか。
おまえが決めろ、おれはどっちでもいい」
「……」
目を、みた。
この人は今何を考えているんだろう。わからない。ただまっすぐに見つめてくるだけだ。
私の目を、まっすぐに見つめてくるだけだ。
「……どっちでも…いいよ」
「あァ?」
「………ローさんが決めて。もう、どっちでもいいの」
その目から視線をそらせて、小さく呟く。生も死も、そんなのどっちでもいい。どうでもいい。
―――身代わりにすらなれない命なんて、どうでもいい。
痛みも悲しみも引き受けられないならせめて、一緒に苦しみたかった。支えになりたかった。
そばにいてあげたかった。
こんなこと、考えたって
今更何も変わらないのに。
「………ちっ」
ひどく苛立ったように舌打ちをして───ローさんは、刀を鞘に納めた。
「医者の前で生きたくないなんて言うんじゃねェ。死ぬなら勝手に死ね」
「……医者っていってもローさんは死の外科医でしょう」
「医者は医者だ、解んねぇならいい。おれの手を煩わせるんじゃねェ海にでも飛び込んでろ」
………言うだけ言ってさっさとどこかへ行ってしまった。どこかで荒々しくドアを閉める音が響いて、ちらりと追いかければよかったのかもしれないと考えた。
それにしても。
「───殺してやるって言ったのは自分じゃない」
なんであの人があんなにも怒っていたのか解らなくて、1人で首をかしげる。
変な人だ。
変な人。
「………」
膝を抱えなおして、目を閉じた。
いつでも、勝手にしんでもいいのならもう少しだけ待ってみよう。あの人ともう一度、話をしてみよう。
もう少しだけ。
頑張ってみよう。
NEXT→あとがき