海に恋した少年
□積み重なる回数
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「ペンギンーッ!!!」
どたばたどた。
足音を荒々しく響かせて奴がやってきた。
「………、」
背中に飛び付かれるのも何なので後ろを振り返ってみると、案の定主人公は泣きそうな顔をしていた。
……焦りだの驚きだのなんだのが入り交じってああいう顔になるんだというのは、ずいぶん前に理解している。
……またあの人がなんかやったのか。
「ペンギンペンギン!!ねぇっ!!!」
「…っ、……なんだよ」
またタックル並みの威力で突っ込んできやがった。
おれがひっくり返らなかったのは日々の努力の賜物だ。
「あ、あ、あのねっ!!船長が言ってたんだけどっ!!」
「………」
やっぱりあの人絡みか。
何でも信じちまうからこいつをからかうのは止めてくれと何度言えばいいんだろうか。
……こうやって突っ込んでこられたのは、既に一度や二度のことじゃない。
「……今度は何だよ」
「ペンっ、ペンギンがベポの毛ぜーんぶ切り取っちゃったって!!ほんとにっ!?」
「……………………、」
……いじるのももうネタ切れなんだろうか。
いくら、なんでも。
「……やっぱりほんとだったんだ…!」
唖然としたおれを見て勘違いをしたのか、主人公はみるみるうちに勝手に青くなりやがった。
「な………な……なんで!?ベポは例えふわふわじゃなくてもっ、どんなでもかわいいけどっ、でもあのふわふわがあってこそのベポなんであって!!そもそもベポは白くまだよっ!?ふわっふわなんだよ!?なのに……なのに…」
「……ちょっと頭整理しろ」
だめだ。
こうなったこいつには一から全部言って納得させないと。
「……え?」
「今何時だ?」
「8時……」
「そうだ、朝飯からまだ15分も経ってないだろ。おまえその時毛のあるベポを見たよな?あの毛を刈るのはそんなに簡単か?」
「………ううん…」
「……わかったら、ゆっくり後ろ見ろ」
「………」
既にほとんど泣いてる状態の主人公が、おれの指示どおりゆっくりと後ろにふりかえった。
「………………え」
視線の先には、
船の桟に座って足をぶらぶらしてる、ふわっふわもこもこのベポ、が。
「――うそッ!!」
「そう、嘘だ」
「なんでッ!!?」
「それは知らねェ」
「だって船長泣いてたよっ!!」
「どう考えても目薬だな」
「また騙されたぁああ!」
「………自業自得だ」
勇み足で船長室に向かうそいつを見送ってから、こっそりとため息をついた。
初めてのタックルは、あいつがウチに来て二日目の昼。
確か「ペンギンさんは首が取れるって本当ですか」、だ。あながち嘘じゃないから口籠もってしまったせいで、今日みたいに勝手に青くなられた。
あれが最初で、おれの記憶が確かだと今日までに──
「───487回、か」
……1日1回されたとしても1年じゃおさまらない。知らないうちにずいぶんタックルされたもんだ。
……記録はまだまだ伸びそうだな。
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