海に恋した少年

□無意識と1つの気持ち
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「二度とするなと言った」

「そう聞きました」

「なぜだ」

「………」


怒っている。とても。

ホーキンス船長の全身からそれが解る。こんなのはきっと初めてじゃないだろうか。


―――まるで殺気のようだ。
それが自分に向けられていると理解して、生まれて初めて船長の事を怖いと思った。




「……すみませんでした」

「謝罪が聞きたい訳ではない。なぜなのかと聞いている」


私が船長をかばって敵の前に飛びだしたのはこれが二度目だった。

一度目もたいそう怒られて、二度としてはいけないと念を押された。それでも。



「―――体が勝手に動きました」


それでも、
やっぱり私はホーキンス船長に傷1つでさえついてほしくないのだもの。


「………おまえは、それがまったく意味の無い行為だと知っているはずだ」

「……」


ホーキンス船長はいくら傷を負おうと、痛みを感じることもなく身代わりを用意することができる。


そんな船長の壁になることは、確かに無駄に傷を負うようなものだ。頭では解ってる。


「………はい、知っています」

「それなら何故」


そう問う船長の瞳が痛ましげに見えて私は目を細めた。

―――もうずいぶんと昔、私の命を使ってくれと頼んだことがある。あの時も怒られた。

おれはお前たちを守りたいのであって身代わりにするために一緒にいるんじゃない、と。

……私の言葉と気持ちは、船長を傷つけたのだと知った。


それでもやっぱり私の命はあなたのものであってほしいから。

あなたのためだけに生きているんだと。命を懸けてとかそんなものの前に、懸けるためだけに命があるんだと。




別に好き好んで死にたいわけじゃない。ホーキンス船長が生きるためになら、死んでもいいと思っているだけ。







「───すきだからです」

すきだから、体が勝手に動いて。守ろうとした。

それだけのこと。




そして船長がこんなに怒っている理由も、私のことがすきだからだ。
だからこそ自分をかばうような行為はしてほしくなかったのだと思う。



(……もし私が、他の誰かが斬り殺されそうになったら あなただって迷わず目の前に飛び出してくるくせに)



心の中で静かに呟いて船長の瞳を見つめ返す。そこにもう怒りは見えなかった。



「無意識だったんです。だからもうしません、とは言えないんです、ごめんなさい」

「もうするな」

「船長」

「するなと、おれが言ったんだ。お願いをした訳ではない」


───船長命令。
ついに言われてしまった。こればかりはどうしようもない。


「………解りました」

解りました。でも。

「努力はしますけれど、何分無意識なのでまたやらかすかも知れません」

「その時は船から降ろす」

「……本当ですか」


さすがに面食らって目を丸くすると、船長は一度頷いた。本気だ。


それだけは嫌だ、困ったどうしよう。
かなり切実な問題になってきた。だって私は絶対にまたやらかす。



「…………………。
……………努力、します」

「そうして、くれ」


あんな思いはもう御免だ。静かにそう言って船長は顔を背けた。





───珍しく拗ねてしまったらしい船長の横顔を見て、今の状況も忘れてついほほえんでしまった。



少しだけかわいいと思ったことを伝えると、今度はどんな顔をするのだろうと考えながら。






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