皆が願った幻想

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「オレ、バッツはズルいと思うんスよね」

会話が途切れて数秒後、ティーダは突然そう言った。

「………は?」

「だってさーバッツ明るいし楽しいし元気だし、けっこうカッコいいしバカなのに勉強できるしさぁ」

「………」

最後以外、自分自身にも当てはまってる気がするんだけど気付いてないのかしら。


「……一緒にいてまじ楽しいけど、時々へこむんだよなぁ」


そう言ってティーダは、へにょりと机に沈み込んだ。




「……もしかして、ここに付き合ってくれって言ってきたのはそれが用件なの?」

「………」

……あたりか。
さんざん色々な話を楽しくしてきたけれど、ようやく本題に切り出したみたいだ。


バイト代が入る前なのにパフェをおごってくれるなんて言うから、何かあるんだろうとは思ってた、けど。


「……悩んでるの?」

「べっつにぃ」

「じゃなによ、私忙しいのよ」

「いッ!」

はっきり言いなさい。
そういう意味合いを込めてティーダの脛辺りを軽く蹴った。

「ひっでぇ〜!」

「ほら、話そらさない」

「…………あー…」

言いにくそうに言葉を濁すティーダ。かまわずじっと見つめると、短いため息をついた。


「えーと…なんつーか、オレにはないもんばっかでさぁ……自信なくすっつーか…」


えぇえ。
それ本気で言ってんのか。



………言ってんだろうなぁ。



「……珍しいね。今はそういうネガティブな時なの?」

「………ん〜…
そうかもな。今何やってもだめなんだよ。オヤジと喧嘩もしたしさ」

「それはいつもじゃない」

「……そうだった」

へへ、とティーダは笑った。力の入ってない笑い方だ。


「…………」

「…………」

「……私さぁ」

「え?」

「バッツは2人もいらないわよ、正直。」

「………はぁ?」


あ、話飛躍させすぎたかもしれない。
でもこれ、なんて言ったらいいんだろうか。


「……つまりね、ティーダがバッツみたいにボコを愛でだしても、引くっていうか」

「え?え??」

しまったこれも間違えた。ああもう言葉って難しい。


「………あのね、ティーダがもしバッツみたいになっちゃったら、私はいやよ。解る?」

「い、いやって」

「バッツ自体がいやってことじゃないからね」

「え、あ、そう?」



いけない頭ぐるぐるしてきた。



「…………よく言うでしょ、自分は自分、相手は相手だって」


ティーダはティーダ。
バッツはバッツ。

わたしはバッツが好きだけど、ティーダだって好きだ。ティーダがバッツになっちゃったらそれはティーダじゃない。

情けないところもひっくるめてティーダが好きなんだから。


「………ユウナちゃんはさ」

「な、なに?」

「バッツじゃなくて、ティーダを選んだんでしょ。それだけじゃだめなの?」



……とにかくティーダにはティーダのいいとこがたくさんあるんだから。



そんな事でしょげたりしないでよ、ばか。




「………ユウナ、オレのこと好きかなぁ」

「そこまで落ちるとうざいわよ?」

笑ってそう言うと、ティーダも笑った。今度はいつもどおりの笑顔だ。




「話してることの半分も理解できなかったけど、要するに元気出せってことだよな!」

「…………」

あ、ですよねー。

「………………うん」


もういいわそれで。そこだけ解ってくれたならいいわ。

「あーっスッキリしたー!スッキリしたらなんか腹へったっス!マック行こうぜマック!!」

「ここでいいじゃない、何か追加で頼みなさいよ」

「ここ一番安くて600円っスよ!?マックならそんだけで100円マック商品6つも頼める!もったいない!!」

「………」

何が。


途端に元気になりまくったティーダを尻目に、ため息をついた。


………まぁいいか。元気ないよりは。



「……いいよ、わかった行こう」

「よっしゃー!」

「はいこれ伝票。ごちそうさま」

「………うわー……」

「………ねぇティーダ」

伝票を渡しながら、聞いてみた。





「……バッツも呼ぶ?」




「呼ぶ!!」




なんのためらいもなく、無邪気に笑いながら答えたティーダを見て――――



なんだかすごく、ほっとした。







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