承った宝
□ストロベリーマカロン
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『―――おめぇ、俺の娘にならねえか?』
『え?』
あの時と同じ月のない夜に
あの時の夢をみた――――
カンカンカン――ッ!!
「みんな!起きとくれ!!」
日が昇って間もなく、けたたましい音と少し嗄れた声が、大海原を進むモビーディック号の船内の通路に響いた。
すると、それが目覚まし時計の代わりなのか、部屋の中で布団がもそもそと動き出す。
「いっけない、寝坊しちゃった!」
ガバッと起き上がった主人公は、手を伸ばし動かない隣りの布団を揺さぶる。
「起きて!朝だよ」
「う〜ん…あさ…?」
目覚めたのを確認すると、脱ぎ捨ててあったTシャツとハーフパンツを掴んだ。
「おはよう!おふくろさん!」
通路に飛び出すと、フライパンと玉杓子を持った40過ぎの女が立っていた。
船員から“おふくろ”と呼ばれている、美咲・ニューゲート。
この船の船長エドワード・ニューゲートの女房だ。
「遅いよ、主人公!」
「ごめ〜ん!!」
「食堂でサッチを手伝っとくれ」
「は―い!」
主人公が走り去って行くと、同じ部屋からもう1人出て来る。
それを待っていたかのように、美咲は膝をついてしゃがんだ。
「バァバ〜はよ〜」
部屋から顔を出したのは、3才位の女の子。
とてとてと足音を立て美咲に抱き付くと、花柄ワンピースの上につけた白いフリルのエプロンに顔をうずめた。
「おはよう、アヤ」
優しい声色(こわね)に、アヤは顔を上げる。
「アヤは何すればいい〜?」
「アヤは、じぃじを起こしてきておくれ」
「じぃじ、まだねんねしてんの〜?」
「あぁ、お寝坊なじぃじだね」
「じゃあ起こしてくる〜」
嬉しそうに笑うと、美咲の身体から離れ船長室に向かって走り出す。
「転ぶんじゃないよ!」
その後ろ姿を見送っていると、他の部屋の扉が次々と開き、船員たちがゾロゾロと出て来た。
「おふくろさん、おはよう」
「おはよ〜おふくろ〜」
「はい、おはようさん」
大部屋から粗方出終わると、隊長たちが使う個室の扉が開いた。
出て来たのは、1番隊隊長のマルコである。
「おはよう、おふくろさん」
「おはよう、マルコ。エースはどうしたい?」
「まだ寝てるよい」
隣りの部屋で起きたような気配はなかった。
マルコがそう答えると
「またかい、まったく」
美咲は忌々し気に腕を組んだ。
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