皆が願った幻想
□モーニング・ウォー
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「はぁっ、はぁっ」
短めのスカートが風にあおられてひるがえったけど、そんなの気にしてはいられない。
数メートル先からチャイムの音が響き、思わず顔をしかめた。
──‥やばい!
リアは出せる力すべてを振り絞ってラストスパートをかける。
…その甲斐あって、なんとかチャイムが鳴り終わる前に校内へと足を踏み入れることができた。
「よーしっ!セーフ!」
しゅび!と両腕を伸ばして喜びのポーズ。
「………かどうかは、私が決めることだな」
「うわ!」
背後から聞こえた冷たい声に驚いて振り向くと、
「江頭とウボァー!」
「………よし。遅刻にしてほしいようだ」
「残念だったな、おまえの無遅刻記録はここで打ち切りだ」
「わー待って待って!ごめんなさいっ!!」
やたらと服を脱いで上半身を見せびらかせたがるセフィロスに、
時折奇声を発することで有名なマティウス。
自身を"皇帝"と呼ぶことと金ぴかの奇抜なファッションでも有名だ。
そんな彼らに自然についたあだ名が"江頭"と"ウボァー"だった。
「…とにかくっ!
私ちゃんと間に合ってたわよ!チャイム鳴り終わってなかったし校門だって閉まってなかったじゃない!」
遅刻にされてたまるか!と必死に反抗するリア。
こんなところで無遅刻記録をストップされるなんて死んでもいやだ。
「……確かにそうだな。
とりあえず今日のところはセーフにしておいてやろう」
よしっ!
と心の中でガッツポーズ。ちょろいもんだわ!
「ああ、今回はそれでいい。………ただし虫けら、おまえはアウトだ」
「え?」
マティウスの視線の先をてんてんと追うと、
「…バッツぅ!?何してんのよそんなとこで!!」
…既に閉まった校門の上から、今まさに飛び降りようとしているバッツがいた。
「げっ、見つかっちまったか!」
なんて言ってもバッツは輝かんばかりに笑ってる。
なんとなくため息をつかずにはいられなかった。
「…おまえは確か、今月だけでも遅刻5回目だな」
「遅刻5回で居残り指導だ。知らないとは言わせんぞ」
……5回も遅刻したのか、こいつは。しかも今月だけで。
ここから寮までそう遠くはないのに、よくもまぁ……
あ、それは自分も一緒か。
「あー…そういえばこの前そんなこと言われたっけなぁ。
でもその紙受け取らなきゃ遅刻にならないんだっけ?」
バッツが校門から飛び降り、しゅびっと両腕を伸ばしてポーズをとった。
「…………」
寄りにも寄って自分と同じポーズだ。すごく気まずい。
「……そういう事だ。
さぁ持っていけ、きちんと担任に渡すんだぞ」
セフィロスが遅刻理由書にバッツの名前を書き、それをバッツへと差し出した。
だけど。
バッツはそれを受け取らない。それどころか胸を張ってこう言い放った。
「居残りなんて絶対やらないね!ボコっていう可愛いチョコボが俺の帰りを待ってるんだ!」
……なに、それ。
リアだけでなく教師2人もそう思ったにちがいない。
2人とも口が開いている。
「じゃ、そういう事で!」
「えっ!?」
そんな2人を尻目に、バッツは風のように走りだす。
──‥リアの手をひっぱって。
正気に戻ったセフィロスとマティウスが何か言っているが、もう聞こえない。
「ちょっと!どうして私まで逃げなきゃいけないのよ!!」
「え?だってリアもウボァーたちに捕まってたんだろ?」
「ちっがうわよ!私は遅刻してない!セーフだったの!」
「へー良かったじゃないか!確か無遅刻キープだなっ!」
「………。そうね。」
何を言ったってむだだ。
やっとわかった。