海に恋した少年

□許せない言葉と行動
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「なに?」

よく解らない、じりじりとしたものが胸に湧き上がってきた。
焦燥感にも似ている、これはいったいなんだろう。


「てめェらのやってる事はただの家族ごっこだって言ったんだよ!!ゴロツキ共が仲良しこよしやりやがって気持ち悪ィ!!」

向こうは私を知っているけど、こっちはどこの誰なのか、名前すら知らない。

一目見ればすぐに解る。海賊とは何ら関係のない一般人だった。



そいつを私は、力の限りにぶん殴った。


景気良く吹っ飛んでいったそいつを追いかけて馬乗りになる傍ら、どこかでどんどん感情が冷えていった。

―――こいつは今恐ろしい事を言った。



「てめェ今なんて言ったんだよ!」

襟を引っ張り上げて、何も喋らないそいつの顔をもう一度殴る。


一気に色んな言葉が頭に浮かび過ぎて何から口にすればいいのか解らない。頭が痛くなってきた。


そんな中、するりと言葉が飛び出した。―――自分が思っていたよりも震えた声だった。


「二度と言うんじゃねえ!!次言いやがったらぶっ殺してやる!!」



そうだ殺してやりたい、だ。



くだんない事を言いやがったこの男を、私は殺してやりたい。

「あたしはその言葉が大嫌いだ!!!」



家族ごっこ。



自分がよく解っているから。
歪んでいると、思う。私は親からの愛を知らない。
だからあの人から呼ばれるままに、あの人を親としてただひたすらに慕っている。

甘えてる。



それでもあの人は、その歪みや甘えもひっくるめて、受け入れてくれた。
豪快に笑い飛ばしてくれたことが泣くほど嬉しかった。


「親」に受け入れられる事が、どれほどの事か。
たったそれだけの事に私がどれほど焦がれていたか。


「何も知らない癖にっ、あたしを、あたしたちを」

侮辱するな馬鹿にするな知った口きくな。どれを言いたかったのか結局自分でも解らないままだった。





「いい加減にしろ、殺す気かよい」

「!」

振り上げた腕を誰かが強くつかんだ。
よく知った声に無意識のうちに気が緩んで、泣きだしてしまいそうになったのをぐっとこらえる。

「騒ぎが起こってるからまさかと思って来てみりゃあ、何やってんだよいお前は」

「……マルコさん」

顔をあげると、たくさんの人が目に入った。

……それから、私の腕をつかんでいるその人は、ものすごく怒っている。


それに気付いて今度は少し怯んだが、それだけで冷静になれるほど私は落ち着いてはいなかった。
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