海に恋した少年

□sheep
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「ローさん」

突然声をかけられた。

………椅子に背を預けて後ろを振り向くと、目を擦りながら俯いている主人公がいた。
時刻はもう夜、というよりも朝に近い。


「こんな時間にどうした」

「……本読んでたの?」

……相変わらずいまいち会話がかみあわない奴だ。


「……ああ、まあな」

「隈ひどくなるよ」

「そうだな」

お前と違ってなかなか眠りに就けない方なんだと言うと主人公は一呼吸おいたあとで、小さく頷いた。

「………そうだね」

「成程、寝呆けてんのか」

「んなことない」

「あるだろ。こっち来い」

「いやだ」

「………なんで」

読んでいた本を閉じる。
回転椅子をきしませて、体ごとそいつの方にむいた。

「……そのにやにや笑いは信用できません」

「…………へぇ」

寝呆けてる割にゃあ、なかなか頭働いてんじゃねェか。


「何もしねぇぞ?」

「こないだは、何もしないって言われたのに結局ひどい目に遭った」

「あれはお前が悪い」

おれだって場合によりけりだ。


「……さっさと来いよ。
ドア開けっ放しだと寒いだろ」

めずらしく両手を広げて迎える態勢を整えてやると、そいつは少し気をよくしたのか控えめな笑顔でこちらに足をすすめた。
足取りはおぼつかない。

……ようやく目の前まで来たと思うと、思い切り飛び付いてきた。
がつんと椅子が滑って机にぶつかる。



「……なかなか素直じゃねぇか」

「へへ、たまにはいいよね。ローさんあったかいなぁ」

「そりゃあ何よりだ」

「うわ!?」

腕の中にいる主人公を、そのまま抱き上げて立ち上がる。

かつかつと音を立ててベッドに向かうと腕の中で少しだけみじろいだ。


「何もしないって……」

「しねぇよ。
いい抱き枕が手に入ったから寝ようと思っただけだ」

「………」

「なんだ、不満か」

「……べつに…いいけど…苦しいからあんまりぎゅってしないでね、ローさん」



そっとならいいよ。




たまにはおとなしく寝てやろうと思ったんだが。

……ベッドに降ろしたそいつがやけに可愛かったから、もしかしたら朝までには予定変更するかもしれない。






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