海に恋した少年

□譲れない思い
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「家族ごっこだと思う?」

そいつは突然、そう聞いてきた。

「───は?」

「私たちの関係は、家族ごっこなんでしょうか、って聞いた」



船長を親と呼び、
船員を息子と呼ぶ。


そんな関係。



「……なんだ、急に」

「そう言ってきた人がいたから。お前らのやってることは滑稽な家族ごっこだ、ってね」

「……そう思うのか?」

意外だった。
そういう事を言う奴は確かにいたが、良くも悪くも大雑把なこの女がそれを気にするとは思えない。



「……思わないよ。
でもすごく腹が立って、気付いたら」

相手の鼻っ柱ぶち折っちゃいました。そう言って申し訳なさそうに笑った。


──おれにとってどうしても聞き逃せない言葉があるように、こいつにはどうしても許せない一言だったのかもしれない。何はともあれ珍しい。


「……私、すきだから」

「ん」

「私は、オヤジさんがほんとにほんとにすきだから」

許せなかった。
嫌われ者の海賊達を、息子と呼ぶその優しさを踏み躙られたような気がした。


「……その一言にどんだけ、私たちが救われたのか知らないくせに」



知らないくせに。
……おれの、昔の口癖だ。



「なに笑ってんのよう」

「悪ィ」

気付けばそいつは泣いていた。顔を伏せて、本当に悔しそうに。………なんだろう、まるでその様は──


「男泣きだな」

「女だよ」

「ハハ、知ってるよ」

「………」



おれだって知ってるよ。あんたが、あんたらがどれだけあの人を好きかって事くらい。


───おれだってその一言に救われてるんだ。



「おれにとっては家族ごっこなんかじゃ、ない」

今ではそう思える。心から。

「……おれのオヤジは白ひげだ」



あの人の誇りを、背負う事を許された日から。……だからこの背の誇りにかけて、おれはそう誓う。


「──で、おまえは…おれにとって………その」

………これを言うのはさすがに、まだ気恥ずかしい。でも。





「か、家族だ」

「……!」

涙に濡れた瞳が、丸くなって。それから、嬉しそうに笑った。


「……成長したなぁ!この前までは恥ずかしがって家族じゃねェとか言ってたのに!」

おいそっちかよ。
……もうほっとこうかなんて思ったが、マルコ達に報告だなんて言いだしたのであわてて肩をひっつかんだ。

「やめろ恥ずかしい!」

「だってエースが家族って言ってくれた!」

「それは……っお前が泣いてたからっ!!」

「え?」

なんとか照れを押し込めてそう言った。
その捨て身覚悟が効いたのか、進もうとする体がやっと止まってくれた。



「───な、泣くなよ。
なんにも知らない奴なんかの言葉に傷つくなって言ったのはお前だろ」

「………」

「喜んでくれると思って言ったんだ。……ほんとにそう思ってるんだからな、おれは」


家族ごっこなんかじゃない。
家族だと思ってる、と。



「やっぱり今日、赤飯ね」


これでも勇気を振り絞って言ったのに、笑顔で涙を拭いながらそんなことを言いやがった。


………でもまぁ、笑ってくれたから……もうそれでいいか。







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