海に恋した少年
□優しい体温
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「……悪ィ、しばらく…こうしててもいいか」
自分でも情けないと思う。
それでもそうしていないともう壊れちまいそうだった。胸が腐りそうだ。
「……泣いてるの」
「………」
また、いつもみたいに「泣き虫」と笑われるんだろうか。それでもいいと思った。
女の胸に体を預けて泣き付くなんて確かにハナッタレそのものだ。
「エース、ふるえてる。
……怖かったの?」
そいつはそう言って、おれの頭を覆うように抱きしめた。
「……いいこ。もう、大丈夫」
──何言ってんだお前。
いつもみたいに笑い飛ばしてくれりゃよかったんだ。なんでこんな。
「……バカヤロウ……」
「……はは。なーによ、そんな口きけるなら大丈夫ね」
そんなことを言いながら、そいつはおれを離さなかった。ぎゅう、とやさしく抱きしめて、
「……エースはやさしいね。
そんなことも解らない、ばかな誰かのせいで傷つかないで」
……聞いた事もないくらいに優しい声で、そう言った。
「エースは強いのにいつも傷だらけだわ。……また誰かを殴ってきたんでしょ」
「……」
「……自分の力がどれだけ強いかきちんと解ってるから、いたずらに炎を撒き散らしたりしない。
そんなエースが、そんなになるまで誰かを殴ったんだもの。
悲しくて、悔しくて、傷ついたのね」
───馬鹿にされたんだ。
おれの事じゃない。
もう、解ってるんだ。そんなことを言われるのは当たり前なんだって。
あいつが死んでもう何年も経った。それでもそう言われるほど、あいつの遺して逝ったものは良くも悪くも多すぎる。
おれには関係ない。
なのに。
────なんで。
なんでおれが傷つくんだ。
なんでおれが否定されたような気持ちになるんだ。
なんでこんなに悔しくて悔しくてたまらねぇんだ。
おまえら、何も知らないくせに。
「………ばーか」
「………は」
やさしくおれの頭を撫でていた手が、勢い良くはたいてきた。
「………てめェ…やさしいんだか厳しいんだかはっきりしろよ」
「そんな奴らに泣かされるなんて、もったいないって言ったのよ。
エースがほんとは泣き虫なのも、頑固なのも素直じゃないのも私は知ってる」
「………」
「……あとね、エースの笑顔はとっても素敵なの。知ってる?照れた顔も優しいところも私はだいすき。
弱いところも強いところも、みんな含めてだいすきよ」
だから、何も知らない奴なんかの言葉に傷ついたりしないで。悔しいじゃない。
そう言って、また笑った。
「……お前、ほんとばかだよな…」
「ふふ、もっかい胸でぎゅっとしてあげよっか?」
「もういい。
……あとはおれがやる」
「わ!」
両手を広げたままのそいつに飛び込むように、強く強く抱きしめた。
――――ありがとうなんて、おれは素直には言えないから。
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